――――バレンタイン。
 それは、女の子にとってはとても大切な日――――。
 今までは渡す人は家族と友達だけだったけど……今回からは違う――――。
 今の私には……大好きな人がいるから――――。
















魔法少女リリカルなのは
Sweet Valentine!
















「お母さん、ごめんね? 忙しい時期なのに手伝って貰って」
「ううん、良いのよ。なのは」
 バレンタイン当日――――。
 私、高町なのははお母さんにアドバイスを貰いながらチョコレートを作っています。
 前からお母さんのお手伝いをしていたから、お菓子作りはそれなりに出来る方だと思うけれど……。
 今日のバレンタインは私にとっては初めてのことで。
 今までもバレンタインは手作りでチョコレートを渡していたけれど、今回は事情が全く違う。
「だって、大好きな人のために作るチョコレートですものね。頑張りたいんでしょう?」
「にゃう……」
 お母さんの言うとおり……そうなんです。
 今、私が作っているチョコレートは大好きな人に渡すためのもの。
 私の一番、大好きな人――――ユーノ=スクライア。
 彼のために作っているチョコレートなのです。
「もう、なのはったら可愛いんだから」
「あぅぅ……」
 お母さんに少しだけ弄られながらもチョコレート作りを進めていく。
 一見、私を弄っているだけにも見えるお母さんだけど、そのアドバイスは的確で。
 私が普段、作っているものよりもずっと上手く作れている。
 でも、お母さんのアドバイスはそれだけじゃなくて。
「なのは、今回は私もアドバイスしてるけど、大切なのは、なのは自身の気持ちなんだから」
「うんっ!」
 お母さんの一番のアドバイス――――それは私自身の気持ち。
 私の一番、大好きな人。
 ユーノ君に伝えられる想いを全て伝えるように心を籠めていく。
















 ユーノ君、私の大好きな人。
 初めて会ったあの頃から私のことを助けてくれて。
 はやてちゃんの時も私のことを護ってくれて。
 私が墜ちた時は自分のことを投げだしてでもリハビリに付き合ってくれて。
 ユーノ君と一緒だと背中がとっても暖かくて、心も暖かくて。
 そんなユーノ君だから私は何時しか惹かれていったんだと思う。
 だから、ユーノ君にはもっともっと私の想いを伝えたい――――。
 私の大好きって言うその想いを――――。
















 あれから、暫くして後はチョコレートが固まるのを待つだけ。
 私は自分の部屋に戻ってユーノ君のところへ行く準備を始める。
 ユーノ君も今日は時間を取ってくれていて。
 でも、ユーノ君との時間まではまだ、結構時間が残されているから。
 私の今のうちに準備を進めておく。
 そう言えば……デートをするのって久しぶりな気がする。
 最近はずっとユーノ君の仕事が忙しくて。
 私の方もまだ、調子が万全じゃ無いからと言うことでずっと翠屋のお手伝いをしていたから……。
 ユーノ君とはまともに顔を合わせていない。
 毎日のようにメールをしたり、電話をしたりはしていたけれど……。
 やっぱり、ユーノ君と会えない日が続いているのは凄く寂しい。
 だから、今日と言う日はユーノ君に会える久しぶりのチャンス。
 私は何時もよりも可愛く見て貰えるように精一杯の準備をする。

 ――――うん、これで良いかな?

 冬と言うことで少し厚めの服装をして、鏡で自分の姿を確認する。
 ユーノ君と久しぶりに会うということで服装には出来るだけ気を遣ったつもり。
 私は服装を確認してから軽く微笑んでみる。
 ユーノ君に会ったらなんて言おう。

 久しぶり? 元気だった? 無理したりしてない?

 ううん、それも言いたいことだけど……少し違う。
 確かにユーノ君に最近は会ってないからこれもあってるんだけど。
 それ以上にユーノ君に会えるのは嬉しいから――――。

 ユーノ君、会いたかったよ

 ――――うん。
 ユーノ君に一番、言いたいのはこれかも。
 今まではずっとお預けみたいなものだったから――――。
 ユーノ君に会ったのは今年の年明けが一番最後で。
 あれから、もう……1ヵ月以上が過ぎてしまっている。
 お話だけは毎日のようにしていたけど、ユーノ君の姿は一度も見ていない。

 だけど、ユーノ君にもうすぐ会える――――

 それだけで私の心はぽかぽかと暖かくなる。
 時間まではまだ、あるけれど……。
 早く、ユーノ君に会える時間にならないかな――――。
















 ユーノ君と約束した時間まで後、1時間少し前くらいになってから私はお母さんの所へ戻る。
 もう、チョコレートは固まった頃だから――――後はラッピングするだけ。
 少しだけ急くような気持ちで階段を下りていく。
「きゃっ……!?」
 気持ちが少しはやり過ぎたのか私は階段で躓いてしまう。
 余りにも急だったから魔法を遣うのも間に合わない。
(落ちちゃう――――?)
 そう思って私はぎゅっと目を瞑る。
 だけど、私が覚悟した衝撃は全くこなかった。
「大丈夫か、なのは」
「お兄ちゃん!」
 階段で躓いた私を下で受け止めてくれたのは私のお兄ちゃん――――高町恭也。
 お兄ちゃんの様子を確認するとちょうど、病院から帰ってきたばかりだったみたいで。
 多分、お兄ちゃんのことだから私が躓いたのを察知して助けてくれたんだと思う。
 因みにお兄ちゃんはフィアッセお姉ちゃんの護衛の仕事の時に怪我をした膝の治療中。
 もう、殆ど治っているみたいだけど、念のために病院に通っているって言ってたかな?
 手術した後に膝をまた少し痛めたと言うことだから念には念を入れてフィリス先生が診ているんだとか。
 お兄ちゃんがどうしてこうなったのかの詳しい話は聞いていないけど……。
 きっと、無茶をしたんだと思う。
 でも、お兄ちゃんは何も教えてくれなくて。
 私には言えないような内容だったんだと思う。
 そう言えばあの事件からもそんなに時間が経っていたんだっけ……。
「全く、久しぶりにユーノに会えるからと言って慌て過ぎだぞ」
「ごめんなさい……」
 お兄ちゃんに注意されて少しだけしょぼんとしてしまう私。
 だけど、これはお兄ちゃんの方が正しいから私は何も言えない。
「いや、別に怒っているわけじゃないからそんな顔をするな」
「……お兄ちゃん」
「唯、慌てるのは良くないな。今回は俺が帰ってきたから良かったが……」
「うん……解ってるよ。ごめんね、お兄ちゃん」
 本当にお兄ちゃんの言うとおり。
 今回はちょうど、お兄ちゃんが帰って来てくれてたから良かったけど……。
 もし、お兄ちゃんがいなかったらどうなっていたのか。
 そう思うとぞっとする。
「……解ってるなら良い。次からはもっと気を付けてくれ」
「うん」
 お兄ちゃんも私がどんな気持ちだったか解ってくれているのか注意を促してくれる。
 本当にお兄ちゃんのお陰で助かったと思う。
 私はお兄ちゃんに感謝しながらそっとその場を後にする。
 だから、お兄ちゃんが私を見ながら何を言っていたのかは解らなかった。
















「……なのはにも困ったものだな」
「でも、止めたりはしないのね。恭也」
「今日と言う日はなのはが一番、楽しみにしていたからな。俺が邪魔をするわけにもいかないだろう」
「じゃあ、恭也は別にそこまで楽しみにしていなかったの?」
「……いや、そんなことは無い」
「だったら、私も頑張らなくっちゃね。なのはちゃんに負けてられないわ」
「……ああ、楽しみにさせて貰うさ」
















「いってらっしゃい、なのは」
「うん、いってきま〜す!」
 お母さんに見送られながら私は家を後にする。
 勿論、ユーノ君のために作ったチョコレートを持って。
 待ち合わせの時間までもう少しだけ時間はあるけれど、待つ時間もデートだから。
 私は急ぎ足で待ち合わせの場所、海鳴臨海公園へと向かっていく。
 ユーノ君とのデートはミッドチルダの何処かにするか、海鳴臨海公園でやることが多い。
 今日は特別な日だからと言うことで海鳴臨海公園でのデートなんだけど。
 急ぎ足で公園の中へと入った私が見たのは――――既にそこで私のことを待っているユーノ君の姿だった。
「ユーノ君!」
 ユーノ君の姿を確認した私は急いで駆け寄る。
「なのは、久しぶり」
「うん、会いたかったよ。ユーノ君」
「……僕もだよ、なのは」
 ユーノ君と久しぶりの言葉を交わす。
 私の会いたかったと言う言葉に少しだけ照れくさそうにしているユーノ君。
 そんな仕草も最近は見ていなかった気がする。
 もう、1ヵ月以上も会っていなかったんだから……。
 ユーノ君の表情を見ながらつい、笑顔が零れてしまう。
「それに、今日のなのははいつもよりも綺麗だ」
「ゆ、ユーノ君!?」
 予想外のユーノ君の言葉。
 確かに何時もよりも気を配ったつもりだったけど……ユーノ君はちゃんと見てくれていて。
 頬が思わず思わず熱くなってしまう。
「あはは……やっぱり、なのはは可愛いなぁ」
「にゃぅぅぅ……ユーノく〜ん……」
 少しだけ拗ねたような声を洩らす私の頭を優しく撫でてくれるユーノ君。
 久しぶりに感じたユーノ君の手はとても暖かくて。
 ふにゃ〜っとなってしまいそう。
 ユーノ君の手って凄く気持ち良くて。
 私はあまりの心地よさにとろんした表情になってしまう。
 だけど……今日、ユーノ君を呼びだしたのはこう言ったことをして貰うためじゃなくて。
「ユーノ君」
「なんだい、なのは?」
「これ……受け取ってくれる?」
 私は気を取り直して、今日の本題であるチョコレートを渡す。
「これは、もしかして?」
 少し考え込むような仕草をしたユーノ君も今日が何の日か気付いたみたい。
「うん、バレンタインのチョコレートなの。今年はユーノ君にだけ、特別なんだよ?」
「あ、ありがとう……」
「えへへ……♪」
 戸惑いながらも嬉しそうにしてくれるユーノ君を見て、私も顔が綻んでしまう。
 これだけでも、ユーノ君のために頑張った甲斐があると思う。
「えっと……早速、食べても良いかな?」
「うんっ!」
 そう言ってラッピングを丁寧に剥がしていくユーノ君。
 そして、ゆっくりと箱の中身を開ける――――。
 そこにあったのは私の想いをそのまま形にしたチョコレート。
「なのは……これって」
「うん、これが私の素直な気持ちだから」
 そうチョコレートに書かれていたのは私の気持ち。
 ユーノ君に対する想いがそのままストレートに描かれていて――――。
 今の私の言葉を代弁してくれている。
 だけど、これだけじゃ私の溢れそうな想いは抑えられなくて――――。
「ユーノ君」
 私はユーノ君の瞳をじっと見つめる。
 もう、久しぶりに見たユーノ君の瞳はとても、澄んだ色をしていて。
 そのまま、引き寄せられるように私はユーノ君に顔を寄せていく。
 私はゆっくりと目を閉じて――――ユーノ君に顔を向ける。
 そして、溢れる想いをそのまま、ユーノ君に伝えるように――――。
 私の想いそのものをユーノ君に伝えるように――――。
















 私はユーノ君にそっと口付けた――――。
















 私の一番の男の子。
 いつだって私のことを見てくれていた男の子。
 いつしか私もユーノ君のことから目が離せなくなっていた――――。
 ユーノ君のことを想うと幸せな気持ちになれる。
 いつも無茶してばかりだけど……優しくて――――。
 どんな時も私のことを見つめてくれていて――――。
 そして、怪我をした時にに折れてしまうはずだった私の心を護ってくれた――――。
 あの時から、いつもいつでもユーノ君は私の心の中にいて――――温かい気持ちにしてくれる。
 だから、私は――――。
















 ――――そんな、ユーノ君が大好きです。
































 From FIN  2009/2/14



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