学校の授業が終わり、放課後。
管理局の仕事まで時間のあったなのは達は家の道場で訓練をしていた恭也のところに来ていた。
時間まで結構あると言うことで恭也に相手をしてもらっているのだった。
「アクセルシューター!」
なのはがディバインシューターの発展型、アクセルシューターを撃つ。
前回の模擬戦では加減をしていたこともあり使わなかった魔法。
しかし、アクセルシューターでも恭也には一発も当たらない。
それも神速を使っていないのに。
「また避けられちゃった……お兄ちゃん速すぎだよ」
「いや、今回のは以前の時よりもずっと速かったぞ。ただ、さっきの攻撃手段は一度見ているからな、対処出来ているのはその分だろう」
今のなのはの魔法を恭也は褒めているが、一発も当てられなかったなのはとしては複雑な気持ちだった。
アクセルシューターを最大数まで操作しても恭也は神速を使わずに対処してしまうのだ。
完全に包囲しても恭也は正面からアクセルシューターを避けつつ、自分に当たりそうなものだけを斬り落とす。
更には後ろから狙っても見向きもせずに斬り落とすか、避けるかしてしまう。
時には恭也が何処にいるのか認識出来ずに誘導攻撃魔法であるアクセルシューターが機能しないこともあった。
それに、恭也にはまだ神速があるのである。
正直な話、バインドでも使わない限り恭也に攻撃を当てることは出来そうも無い。
最も、誘導攻撃魔法であるアクセルシューターをここまで簡単に対処してしまう恭也にバインド系の魔法が通じるとは思えないが。
恐らくは、なのはが使用するフープバインドやチェーンバインド、更に高位バインド魔法のレストリクトロックも簡単に対処してしまうだろう。
それだけ恭也の対処の方法は鮮やかだった。
「……それでも凄すぎだよ。二人もそう思うよね?」
「うん、凄いと思う」
「そうやなぁ……本当に凄いと思うで。ヴィータやシグナムでもそんな動きで避けたり出来んし……」
フェイトとはやても素直に感想をもらす。
特にフェイトは完成したソニックフォーム……謂わば真・ソニックフォームと言うべきである形態も凌がれてしまっている。
生身であれだけ魔法を対処してしまう恭也は本当に凄いとしか言えない。
「いや、そうは言われてもな……俺とは違う方法だと思うが、美由希も恐らくは対処出来るぞ。それに父さんや美沙斗さんもな。それに……」
恭也は苦笑しながら言葉を続ける。
「……他にも対処出来る人達はいるしな。俺が別に凄いと言うわけじゃ無い」
なのは達は恭也の言葉に更に絶句。
恭也だけでは無く、高町家にいる人間は桃子を除けば全員、魔法に対しても対処は出来ると言うことである。
しかも、恭也の知り合いには同じとは限らないが魔法にも対処出来る人間がいると言っている。
なのは達は驚くしかなかった。
恭也の周りの人達はどうなっているのだろう、と。
魔法少女リリカルなのは
護りたいということ
高町家で恭也と軽く訓練をして数時間後、なのは達は管理局に来ていた。
今日の仕事は簡単なものだったので、早めに終わり食堂でのんびりとしている。
ちょうど休憩に来ていたユーノを交えてなのは達はお喋りをしていた。
「とまぁ……こんなことがあったんよ」
「いや、僕も恭也さんの剣術はこの前に見たから解るけど……」
ユーノは何を言っていいのか解らないような表情をする。
恭也がなのはと模擬戦をしたのは一緒にいたから知っているし、先日の休みの時にフェイトが恭也に模擬戦を挑んだのもなのはから聞いている。
それに、美由希や士郎も恭也と同じ剣術をしているので何となくだが解っていた。
だが、恭也達の剣術以外にも対処出来る手段を持っている人達がいるというのには驚きだった。
「うん、それは私も驚いた。他にもそんな人達がいるなんて」
「にゃはは……」
フェイトの言葉になのはは苦笑するしか無い。
恭也の言っていた他にも対処出来る人達には心当たりがあるからだ。
しかし、なのはの知っている人達以外にも退魔士、祓い士……それに忍者やHGS……更には夜の一族、自動人形と言った特殊な人達もいる。
特に、普段はドジっ娘である那美や、病院で恭也の膝の主治医をしているフィリスまでその中にいるとは思わないだろう。
最もそのことに関しては、なのはが知るはずも無いのだが。
「う〜ん……もしかして、なのはの世界って魔力が発達していないかわりに他の部分で発達してるんじゃないかな?」
暫く、考えごとをしていたユーノが思っていた疑問を口にする。
「どういうこと?」
ユーノの言葉になのはが首を傾げる。
「うん、時空管理局とかそれに関連する世界は魔法が発達しているんだけど……」
「ふぇ……?」
「それに……剣術とか、霊力だったかな……? 逆にそう言った力を持っている人っていうのはなのは達の世界とは違っていないんだ」
「なるほどな〜それなら納得やわ〜。確かにユーノ君の説明は解りやすいと思うで。魔法の部分のかわりが剣術とかってことなんやろ?」
「うん、そう考えてもらって良いと思うよ」
ユーノの講釈になのはは解らないと言った表情だが、はやてには解ったようである。
「……私にも何となく解る気がするよ。恭也さんがあれだけ強いのもきっと魔法とかが無かったからって言うのもあると思う」
「そうやなぁ……」
フェイトの言葉にはやても頷く。
「……うん」
なのはもフェイトの言っていることはよく解る。
詳しいことまでは知らないが、恭也が戦っていることは知っていた。
それも、今のなのはが想像出来ないような戦いを。
そして、それが恭也に大きな影響を及ぼしたと言うことも。
なのはが魔法に出会う前の時におきた数々の出来事。
恭也がその数々の出来事に関わっていたことはなんとなく解っている。
確かに過去の出来事の中で、様々な戦いを繰り広げていたのもあるのだろうが、恭也が変わっていったのもあの時期だったと思う。
以前はどこか達観としてほとんど笑わないような冷めた性格だった恭也が笑うようになっていったのもあの頃だったから。
それになのはが魔法と出会い、フェイトやはやて達と知り合った後に起きた昨年の出来事。
その時は香港に訓練に行った後、恭也は美由希と共にフィアッセの護衛についた。
そして、戻ってきた恭也は身体に銃による傷を負っていた。
何があったのかまでは解らないが特に恭也の膝のダメージは大きかった。
過去の出来事に関しては恭也に聞いても美由希に聞いても何も教えてはくれなかった。
それに士郎も何かを知っているようだが、なのはに語ることは無かった。
恭也はそれだけの経験を積んで来ているのである。
あれだけ恭也が強いのはその辺りからもきているのだろう。
もし、魔法があったとしたら恭也があれだけ傷付いていくことも無かったかもしれない。
しかし、戦う術がその身一つしか無かったからこそあれだけの力を身につけたとも言える。
ただ、それは恭也達にしか解らないことなのかもしれないが。
暫く食堂でお喋りをして、今日はお開きとなった。
フェイトとはやては管理局を後にしたが、なのははまだ仕事が残っているユーノを手伝っていた。
ユーノの仕事は普段から大量の資料請求をこなさなければならない。
しかし、なのはが手伝ってくれたのもあり、仕事は間も無く終わりそうだった。
そんな中でなのはが仕事を片付けながらユーノに話しかける。
「ねぇ、ユーノ君」
「なんだい、なのは?」
ユーノは最後に残った資料を片付けながらなのはのほうを振り向く。
「お兄ちゃん達ってなんであんなに強いのかな?」
「なのは……?」
「ううん、普通の強さだけじゃない、意思の強さも本物だよ。でも……」
なのはは仕事を片付けつつもユーノに向き直る。
「どうすれば、あそこまで頑張れるのかな……? 私も2年前に怪我をしたから……あれだけ傷付きながらも戦っているのは解らないわけじゃ無いんだけど」
「……なのは」
ユーノは少しだけなのはの言葉に驚きを覚える。
元々、強い意志を持っているなのはがこんなことを言うのは珍しいかもしれなかった。
「きっと……恭也さんがあそこまで頑張れているのはなのはと同じ理由だよ」
ユーノは以前に聞いた恭也の話を思い出しながら言う。
「えっ……?」
「……護ること。そう、護りたい人達がいるから戦うって……恭也さんは以前にそう言っていたよ」
「お兄ちゃんが……?」
「うん、それになのはも同じような理由で魔導師を続けているよね?」
ユーノの言葉になのはは何かに気付く。
確かに恭也が護りたい人達のために戦っているということ、それはなのはも同じと言えたからだ。
なのはが教導隊で魔導師を続けている理由も恭也が戦っているのと似ている理由なのである。
空を飛ぶの好きで、一緒に飛ぶ人や帰り着く地上が好きで、だから自分の技術や力で自分の好きな空と地上を護りたい。
そういう思いでなのはも教導隊に入って魔導師を続けているのである。
それに、護りたい人達のためにということは恭也の振るっている力と同じ理由だった。
「そっかぁ……そうだったんだ。お兄ちゃんもなのはと一緒で……護りたいからって……」
最近は、仕事のことと恭也との模擬戦に負け続けていたこともあってそんな大事なことも忘れていた。
しかし、ユーノのお陰でそれを思い出せた。
「うん、それに……僕も僕の出来ることでなのはを護りたいから。そういう思いは一緒だよ」
「ユーノ君……!」
なのはは飛びつくようにしてユーノに抱きつく。
「な、なのはっ」
ユーノは慌てるが、なのははユーノに抱きついたまま離れない。
「ありがと、ユーノ君。なのはに大事なことを思いださせてくれて」
「なのは……」
抱きついたまま身体を預けてきたなのはをユーノはそのまま優しく抱きとめる。
「ユーノ君……」
なのはが少しだけ潤んだような眼差しでユーノを見つめる。
なのはの意図を理解したユーノはなのはに優しく口付ける。
暫く、口付けをした後、ゆっくりと唇を放す。
「ん……ユーノ……くん……」
まだ、名残惜しそうな眼差しをしているなのは。
「……解ってるよ。でも、続きはこれが終わってからだよ」
そんななのはにユーノは優しく諭すように言う。
仕事は殆ど終わったとはいえ、少しだけ残っているのである。
このままなのはと一緒に甘い一時を過ごしても良いのだがそうもいかない。
「うん……解ったよ」
ユーノの言いたいことを理解したのかなのはは残った仕事を片付け始めようとする。
「あ……ユーノ君」
「ん……?」
何かを思いだしたかのようになのははユーノの方を振り向きユーノに笑顔で言葉を伝える。
最近は、あやふやになっていた自分の心を護ってくれた御礼に。
そして……大事なことを思いださせてくれたなのはの一番、大好きな人に。
たった一言だけ、その想いを渡すように。
――――だぁい好き、だよ
From FIN 2008/3/8
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