「まったくもう……たまには無傷で会いにきて下さいね?」
「……すみません」
 コンサートの事件から数日後……恭也は海鳴大学病院でフィリスから治療を受けていた。
 恭也がフィリスから治療を受けているのも……フィアッセを狙った男、ファンとの戦いで出来た傷が元だった。
 ファンは嘗てもフィアッセたちを狙って事件を起こしており、その時は士郎が対応していた。
 士郎はフィアッセを護りきったかわりに自身は瀕死の重症を負ってしまった。
 かろうじて命は取り止めたがその時の士郎は生きていることが奇跡的だとも言えるほどの傷だった。
 しかも、その時の光景を目の前で見てしまったフィアッセにも大きなトラウマを与え、恭也が無理をして膝を壊す要因ともなったのである。
 いわば、ファンは宿敵とも言える相手だったのだ。
 だが、恭也とフィアッセのボディーガードを務めていたエリスによりファンのテロは食い止められた。
 その時の事件で恭也は御神流の最大の奥義を使った。
 しかし、戦いの前の段階で既に神速を多用しており、更にファンとの交戦で銃による傷を負わされていた。
 それにも関わらず恭也はその奥義を放ったのである。



 ――――御神流、奥義之極・閃



 閃は、御神の剣士としての最終到達地点。
 それを極めた剣士の前では全てが零になる。
 間合いも、距離も、武器の差も……。
 恭也はこの技を以ってしてファンの目的を撃ち砕いた。
 大事な人達を護るために……。
















魔法少女リリカルなのは
Sweet Songs Forever〜Anoter Side After〜
















「はい、これでお仕舞いです。もっと体を労わって下さいね?」
「……はい。失礼しました」
 フィリスの診察が終わり恭也は病室を後にする。
 恭也は軽く溜息をつく。
 何度も世話になっていると言うのもありフィリスの言葉は当然とも言えた。
 解ってはいるが簡単には上手くいかない。
 御神の剣士としての本分は戦って護ることにある。
 今回の事件も神速を使わなければフィアッセもエリスも護れなかった。
 膝も殆ど治っているとは言え、完治したと言うわけでは無い。
 その膝を行使して戦ったのだから今回の病院での結果も当然と言えた。
 幸い、暫くしたら膝は大丈夫だということだが。
 恭也は松葉杖を突きながら病院を後にする。
「恭也〜」
 病院を出たところで忍が笑顔で待っていた。
 車で迎えに来てくれたらしい。
「……忍」
 恭也の姿を認めた忍が恭也の方に歩いてくる。
「大丈夫……?」
「ああ、どうにかな。暫くすれば膝の方も落ち着くらしい」
「そう……良かった」
 恭也が思ったよりも軽い負傷だったことに忍は安堵する。
 忍の表情を確認した恭也も微笑を浮かべる。
「あ、そのままじゃ歩き辛いでしょ?」
 忍が恭也に寄り添い支える。
「ああ、すまない」
 忍に支えてもらいながら恭也はゆっくりと歩いていく。
 忍とこう言う関係になってからは何時もの光景。
 申し訳無いと言う気持ちはあるが、忍の気遣いは嬉しかった。
 自分を待っていてくれると言うこと、それは掛け替えの無いことなのだから。
















 忍の運転で高町家に戻る。
 その間に恭也は忍に今回の事件のことを話す。
 一通りの話が終わり、今は恭也の部屋で事件の時の話の続きをしているのだった。
 今回の相手が昔に士郎に瀕死の重傷を与えた事件の首謀者だったこと。
 フィアッセやエリスに大きな心の傷を与えた相手だったこと。
 自分が奥義之極で決着をつけたということ。
 そして……エリスに告白されたということ。
 あまり話すべきことでも無いような話だったが、忍は恭也の話を真剣に聞いてくれていた。
 忍は普段は色々とトラブルを起こしたりするような性格だが、こう言う時は本当に真剣だった。
 特に恭也の闇の部分とも言えるこの稼業のことにも忍は理解を示してくれている。
 恭也にはそれが有り難かった。
「……本当に大変だったのね。恭也が無事でよかったけど……」
「……ああ」
「でも、そのエリスって娘は私も知らないわよ?」
「む……」
 忍のいきなりの質問に恭也は言葉につまる。
 エリスはフィアッセの親友でもあり、自分とも当然だが面識はある。
 しかし、エリスを忍達に合わせたことは無い。
 実際にエリスと会ったのも今回の事件の時が久しぶりだったのだ。
「しかも、別れる前に告白みたいなことをされたのよね?」
「いや……まぁ、そうなんだが……」
 恭也は忍の追及に言葉につまる。
「でも、断ったのよね?」
 忍が不安そうに恭也を見つめる。
 恭也が大切にしてくれていると言うのは解っている。
 でも、恭也がエリスの告白を受け入れるとしたら……忍は自分を保てるか自信が無かった。
 恭也が好きだと言ってくれているのは本当に嬉しい。
 忍も恭也のことが誰よりも好きだと言う自身もある。
 だが、忍も女性であり、それとこれとは別問題なのである。
「……ああ。昔だったらどうかは解らなかったが……今の俺には忍がいるからな」
 しかし、恭也は忍の不安をよそにはっきりと答える。
 忍は恭也の言葉が嬉しかった。
 恭也は朴念仁と言っても良いほどそう言う方面には無頓着である。
 だが、恭也ははっきりと忍のことを言ってくれた。
「恭也……ありがと」
 恭也の言葉があまりにも嬉しくて忍は恭也の胸に顔を埋める。
 顔を埋めてきた忍の頭を恭也は軽く撫でる。
 忍と軽く口付けを交わして。
 恭也は忍とそのまま寄り添うようにしていた。
 久しぶりに訪れた二人の時間。
 暫くの間一緒にいられなかった時間を埋めるように二人は寄り添っていた。
















 暫く恭也の部屋で過ごした後、恭也と忍は翠屋へ向かう。
 既に夕方と言っても良い時間であり、今の時間帯なら既に客足も少ない。
 そう考えた恭也は忍を連れて翠屋に行くことにしたのである。
「む……恭也に忍ちゃんか」
「あ、どうしたの二人とも?」
 恭也達に気付いた士郎と桃子が二人の方を見る。
「あ、お兄ちゃん。足は大丈夫だった……?」
 今の士郎達の反応で恭也の存在に気付いたなのはが近寄る。
「ああ、何とかな。なのはの方こそ怪我の調子は大丈夫か?」
「あ、うん。大分、調子は良いよ。そろそろお仕事も増えてくると思うけど……」
「……そうか。こんな状態の俺が言っても説得力は無いが……気をつけて頑張ってくれ」
「うんっ!」
 元気良く答えるなのはの頭を撫でる。
 恭也に頭を撫でられてなのはは嬉しそうに微笑む。
「それで……今日はどうしたんだ?」
 なのはとの会話が一段落したのを確認した士郎が恭也に話しかける。
「いや、実は……父さんに今回の事件のことを話しておこうと思ってな」
「……そうか」
 恭也の空気を読み取ったのか士郎は了承する。
「桃子、席を外すぞ。なのは、後は頼むぞ」
「解ったよ、お父さん」
 士郎はなのはと桃子に声をかけて翠屋から出て行く。
「じゃあ、俺は父さんと話をしてくるから。忍は母さん達の手伝いをしてくれ」
「うん、解ったわ」
 恭也は忍に後を任せて翠屋を後にする。
 こう言う時の話をする場所は大体、解っている。
 恭也は士郎の後に続いて道場に向かう。
















「さて……今回の事件のことだが……首謀者は誰だ?」
 道場について一息ついた後、士郎がすぐに質問をする。
「……父さんが瀕死の重傷を負った時と同じ人間だ」
「なに……?」
 恭也の言葉に士郎は驚く。
「……今回もフィアッセを直接狙っての動きだった」
「成る程な……あの時の事件と同じと言っても可笑しくは無いか」
「……ああ。実際にあいつはコンサート会場に爆弾まで用意していた」
 恭也の言うように士郎がフィアッセを護って瀕死の重傷を負った時も、ファンは爆弾を使用していた。
 最後の決着の時に爆弾のスイッチを押されていたらどうなっていたか解らない。
 もし、恭也が『奥義之極・閃』を習得していなかったらファンの行動を止めることは出来なかったかもしれない。
「そうか……それで、護りきれたんだな?」
「……ああ。美由希も相手の剣士との戦いに勝利した。俺の方は奥義之極を使ってなんとか護りきれたと言う感じだが……」
 恭也は膝を見ながら感慨深げに言う。
「……よくやったな」
「父さん……」
 無理をしすぎたことを問われるかと思ったが士郎からの言葉は予想と全く違うものだった。
「お前は御神の剣士として全てを出し切ったんだ。俺がお前を怒る理由なんて無い」
 そう言って士郎は恭也の胸を軽く小突く。
「これからも、お前の大切な人達を護ってやれ。俺から言えることはそれだけだ」
「……ああ」
 士郎の言葉に恭也は深く頷く。
 恭也の返事を確認した士郎は道場を後にし、翠屋に戻っていく。
 士郎が翠屋に戻り、一人になった恭也は改めて誓いを立てる。
















 ――――戦って護るという御神の剣士としての本分
















 ――――これからもその本分を全する
















 ――――たとえ、それが……どんなものが相手だったとしても
















 ――――大切な人達を護るためならこの剣を振るうことに躊躇いは無い
















 ――――それが、恭也の御神の剣士としての在りようなのだから





























 From FIN  2008/2/24



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