「悠翔……どう、かな? 可笑しくない?」

 長いようで短かった1年の終わる最後の日。
 フェイトは黒を基調とした振り袖に身を包んでいた。
 身に付けている振り袖は一見、黒を基調としているため地味にも見える。
 だが、美しい金色の髪を持つフェイトには良く似合っている。
 それにフェイトは元より、黒を基調とした服装などを好む傾向にあるのだ。
 意図しなくてもこういったチョイスになるのは間違いなかった。

「いや、良く似合ってる」

 そんなフェイトの姿に悠翔は見とれるしかない。
 ただでさえ、フェイトは見惚れるほどの美少女なのだ。
 悠翔自身は容姿に惚れたわけではないが、それでもフェイトの姿には目を奪われてしまう。
 とにかく、フェイトの振り袖姿はそう思えるほどに美しかった――――。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever〜After Days〜
















 ――――12月31日





 1年の最後の日である大晦日。
 フェイトは年明けの数日まで滞在するという悠翔に一緒に二年参りをしようと誘っていた。
 勿論、悠翔の方も始めからそのつもりであり、フェイトの頼みを断る事はない。
 今はまだ、傍にいる事が出来ない彼女に対して、してあげられる事は出来るだけ一緒に思い出を共有する事。
 悠翔はそのように思っていた。

「悠翔?」

 隣を歩いているフェイトが悠翔の顔を覗き込む。
 その距離は指を絡める手のつなぎ方――――恋人つなぎをしているためか異様なほど近い。
 実際は普通に悠翔の様子を伺っているというだけなのだが、これについては心の距離が近いとでもいうべきだろう。

「ん……ちょっと物思いにふけっていた。何時になればフェイトと一緒になれるのかなって」

「ゆ、悠翔っ」

 他愛のない恋人同士のやり取り。
 本人達は至って真面目なのだが、如何にもいちゃついている。
 傍目からすれば普通のカップルなのかもしれないが……この2人はまだ中学生でしかない。
 今時の少年少女はここまで進んでいるのかと思わざるを得ない。

「でも、冗談で言ってるつもりはない。本当に俺はそう思ってる」

「……うん、私も」

 悠翔の言葉にフェイトは頷く。
 何時になれば一緒になれるのか。
 これは悠翔だけが思っている事ではない。
 フェイトも全く同じ事を思っていた。
 2人は魔導殺し事件と言われる一連の事件の当事者。
 悠翔は事件の真相の全てに関わった時空管理局の管理外世界出身の剣士。
 フェイトは時空管理局に属する魔導師にして、執務官。
 互いの立場も出自も全く違う2人だが、事件の中でめぐり逢い――――そして、結ばれた。
 だが、悠翔は香港国際警防隊に保護者が属しており、その下にいる。
 海鳴の地にいるフェイトとはどうしても一緒になる事は出来ない。
 大人びているとはいえ、2人ともまだまだ子供の域にしかないのだ。
 自分達だけでは如何する事も出来ない。
 だが、悠翔とフェイトの2人が抱いている思いは軽いものではない。
 本気でそう思いあっている。
 だからこそ、ちょっとした誓いを立てる意気込みで2人は二年参りへと向かっているのだった。
















「わぁ……」

 到着した神社の様子を見てフェイトが感嘆したように呟く。
 周囲には溢れかえるような人。
 普段着で歩いている人もいれば、フェイトのように振り袖姿の人もいる。
 目的は同じく、二年参りだろう。

「……流石に人が多いな。はぐれないようにしないと」

「うん」

 悠翔がフェイトに気をつけるようにと促す。
 神社には多数の人がおり、新年を迎えようとしている人が殆どなのか空気が浮ついている。
 悠翔の言うとおり、気をつけなくてはならないだろう。
 フェイトはその言葉に頷き、後に続く。

「そういえば……此方で年越しをするのは随分、久しぶりだな」

「え……そうなの?」

「ああ、俺がこの国で年を越していたのはまだ、両親が生きている頃だったから」

 神社を訪れている人々を見ながら、懐かしそうに言う悠翔。
 その表情にフェイトは表情を僅かに暗くする。
 生まれが特殊なフェイトは母、プレシアを喪って以来からの独り身だが、悠翔も実の両親を失っている身。
 今でこそ、フェイトも悠翔も義理の親というべき人に引き取られているが、身の上は同じようなもの。
 もし、その人達に引き取られていなければ互いがどのような人生を送る事になっていたかは想像も出来ない。
 だが、互いがこういった経緯を持っているからこそ解っている事もある。
 今の自分達は引き取ってくれた人達に守られている事。
 その保護下にあるからこそ、魔導殺し事件の当事者でありながら、今の自分達はこうしていられる事。
 そして、魔導殺しの事件に至るまでの一連の流れが2人を結び付けてくれた事――――。
 フェイトと悠翔の2人の関係は今の立場と状況があってこそ生まれたものだった。

「だから、少し嬉しく思うんだ。両親がいなくなって初めて行く二年参りがフェイトと一緒で」

「悠翔……」

 何しろ、フェイトという大切な人にめぐり逢う事が出来たのだ。
 だからこそ、悠翔はこの出会いに感謝している。
 自分を生んでくれた両親に。
 自分を引き取ってくれた夏織に。
 今回の二年参りはそれに対する礼を捧げる意味合いもある。
 だが、今回はそれだけではない。
 フェイトと二人っきりで一年の最初と最後を締めくくる事――――。<
 これが、フェイトと一緒に二年参りに訪れた目的だった。
















「除夜の鐘、か」

 暫くの間、フェイトと談笑して時間を過ごしていると大晦日も後僅かとなる。
 一年の最後に鳴らす除夜の鐘。
 悠翔とフェイトは参拝のために並んでいた。
 偶然かは解らないが、順番は一番最後である。

「もう、一年が終わるんだね。今年は本当に色々あったと思う」

「そうだな。俺も同じだ」

 フェイトがしみじみと言い、悠翔もそれに同意する。
 中学生に進学しての一年間。
 学校も含めて、大きな変革があった年だった。
 だが、その中でも一番、大きな出来事は――――。

「フェイトに出会えたから」

「悠翔に出会えたから」

 お互いが出会えた事。
 これは人生の転機になったともいえるほどの出来事だった。
 特にフェイトは魔導師として生きる事を辞める事になったためにそれは尚更、大きな出来事に感じる。
 自分の人生を一変させる出来事というものは幾つかあるが、今年の出来事はまさにそれであった。

「ははっ……やっぱり、思う事は同じ、だな」

「えへへ……同じだね」

 悠翔とフェイトは互いの思っている事が全く同じであった事に微笑みあう。
 やはり、出会った事が一番大きな出来事であったのだ。
 ある意味で2人の心は重なっているといっても良いかもしれない。

「っと……俺達の順番みたいだな。フェイト」

「うん、一緒に参拝しよう」

 2人で話をしている間に除夜の鐘を鳴らす回数は最後の一回を残すのみ。
 もう、古い年が終わり新しい年となるのだ。
 そう思う間に新年を迎える合図ともいうべき最後の鐘が鳴らされ、悠翔とフェイトは手を合わせて、お参りをすませる。
 古い年を締めくくる最後の共同作業。
 そして、新しい年を迎える最初の共同作業。
 古い誓いと新たな誓いを込める。
 その誓いにある思いは互いが思いあっている事。
 だから、悠翔もフェイトもそれを決して口にはしない。
 心は同じなのであるから――――。

「悠翔」

「フェイト」

 参拝をすませ、2人は正面に向き合う。
 一年の最後を2人で締めくくり、一年の最初を2人で迎えた。
 二年参りをすませた2人が紡ごうとしているのは勿論、新年を迎える事を祝う最初の言葉である。
 だが、この言葉はありきたりではあるけれど、大事な言葉。
 一年の最初を祝う言葉を伝える相手はやはり、一番大切な人でありたい。
 それが、悠翔とフェイトが思う事であり、共有した思い。
 だから、2人はこの祝いの言葉を相手に伝えた――――。
















「「明けまして、おめでとう」」





























 From FIN  2012/1/1



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