「おはようございます、美由希さん」
「うん、おはよう。フェイトちゃん。それじゃ……行こうか?」
「はい」
 悠翔が香港に戻ってからフェイトは時々、美由希と一緒に訓練をしている。
 魔導師であった頃から訓練は欠かさずにしていたが、今ではもう魔導師としての訓練をする事はない。
 だが、基礎の部分に関してなどの訓練はいくらやっても無駄と言う事はない。
 そう言った事情から毎朝訓練をしていると言う美由希につきあわせて貰っているのだった。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever〜After Days〜
















「はぁ……はぁ……」
 美由希との訓練の日課はランニングから始まる。
 時間帯は早朝ではあるが、平日なのでそこまで長い時間は行わない。
 こうして、美由希につきあって訓練して貰うようになってもうすぐ一か月になる。
 しかし、美由希のペースについていくのは難しい。
 ランニングが終わってみても息を切らしているのはフェイトの方だけだ。
 美由希の方は全くと言っても良いほど息を切らしていない。
 フェイトが話を聞いてみたところ美由希は数時間も全力で動いても全く平気らしい。
 恐らく、命のやり取りを行う事が前提である御神の剣士の戦う場では驚異的な体力と精神力を要求されるからなのだろう。
 だとすれば悠翔も美由希のように凄まじいまでの体力と精神力を持っていても可笑しくはない。
 フェイトは知る由もないが……恭也ならば半日にも及ぶ時間を戦闘継続しても問題はないほどである。
 魔導師も体力や精神力を要求されるものではあるが、流石にここまでとは言えない。
 少なくとも魔導師が半日近くも全力で動き続けられると言う事はない。
 特に戦闘中と言うような張りつめた状態の中で長時間耐えぬく事は出来ない。
 色々な意味で美由希達は凄いとも言えた。
「お疲れ様、フェイトちゃん」
 呼吸を整えるフェイトに美由希が声をかける。
 フェイトに対して美由希は些かの疲れすらも感じていない。
 ある程度は慣れてきたと言ってもフェイトと美由希ではやはり、大きな差があると言っても良いのだろう。
 フェイトだってずっと訓練を続けてきた身であり、それなりに鍛えている。
 だが、これほどまでに差があると言うのは普通ならば考えにくい。
 恭也とずっと厳しい修練をつんできた美由希だからこそこれだけの差があるのだ。
 今までは美由希の側面を知る事はなかったが……魔導殺し事件に関わって以来、こうして知る機会が増えてきた。
 悠翔に関わった事で剣士の世界に少しだけ足を踏み入れたと言っても良いのかもしれない。
 そう考えつつ、息を整え直しながらフェイトは美由希の言葉に応じるのだった。
















 ある程度、落ち着いたところで準備していたタオルで汗を拭くフェイト。
 運動で火照った身体に汗の流れる感覚が何処か心地よい。
「フェイトちゃんも大分、慣れてきた感じだね?」
「いえ……まだまだです」
 美由希はそう言うが、フェイトはまだまだであると思う。
 このくらいでは歩みを進めている悠翔には遠く及ばない。
 そう簡単に追いつけるなんて思っていないが、それでも悠翔には近付きたい。
 フェイトはその一心で訓練に励んでいる。
「謙遜する事なんてないよ。フェイトちゃんもこうして、ついてこれるようになってきたし」
「……でも」
「慌てる事なんてないよ。フェイトちゃんは確かに少しずつ歩みを進めているんだから」
「はい」
 美由希の言う通り、少しずつ歩みを進める事が大切――――その事は良く解る。
 余りにも急ぎ足で進んでしまえば嘗てのなのはのようになってしまう。
 それは明らかな事であった。
 悠翔だってフェイトがそんなふうになる事は決して望んでいないだろう。
「フェイトちゃんは自分のスピードで行けば良いんだよ」
 それに美由希の言う通りである。
 フェイトにはフェイトのペースがあるのだ。
 無理に背伸びをしなくても良い。
 悠翔だって多分、そう言ってくるはずだ。
 確かに早く悠翔に追いつきたいと言う気持ちはある。
 だが、無理にそのような事をしても何もならない。
 そもそも、フェイトが魔導師以外の道を歩み始めてまだ僅かな時しか経っていないのだ。
 何事もこれからであると言うべきだろう。
 美由希の言う通り、自分のペースで進んでいけば良い。
 今までとは違う道を歩み始めた以上、何事も手探りだ。
 だから、今はじっくりと励むのみ――――。
 それがフェイトに出来る唯一の事だった。
















「それで、悠翔とはどう?」
 汗を拭いて落ち着いたところで美由希が悠翔との事を尋ねる。
「えっ!? ど、どうって言われても……」
 美由希からの予想外の言葉にフェイトは思わず驚く。
 なのはやはやてに聞かれるのは良くある事であるため、そこまで驚く事はないが……。
 美由希にこう聞かれるとは思っていなかった。
 しかし、美由希が悠翔の従姉である事を考えれば従弟の事が気にならないはずがない。
 ある意味ではこの問いかけは当然の事であると言っても良い。
「だって……悠翔とフェイトちゃんは遠距離恋愛中だよね? 普段はどうしてるのかとか気になるよ」
「え、えっと……」
 美由希の言いたい事は確かに尤もである。
 悠翔とは遠距離恋愛と言う形でつきあっているが……。
 それはなのは達に比べても随分と難しい形である。
 なのはの場合は直接会いに行く事は可能であるし、はやても融通がそれほどきくわけではないが不可能ではない。
 意中の相手に全く会いに行けないのはフェイトくらいのものだ。
 だからこそ、美由希はフェイトがどうしているのかが気になったのだろう。
「先日、悠翔から電話があって……それから比較的連絡を取り合うようになりました」
 ここは黙っていても仕方がないのでフェイトは美由希の質問に素直に答える。
「へぇ〜〜〜。悠翔もやるね。あの子はそう言う事するタイプじゃないと思っていたけど……」
 しかし、美由希からも悠翔が自分から電話をしたりしてくるようなタイプだったとは思われていないらしい。
 意外そうに話を聞いている。
「む……悠翔はちゃんと私の事も気にかけてくれています」
 美由希の言い方にフェイトは思わずむっとしながら言い返す。
 何となく悠翔の事を馬鹿にされたみたいで。
 フェイトは頬を膨らませながら美由希を見つめる。
「あ、ああ……うん。ごめんね、フェイトちゃん。でも、悠翔って確か筆不精みたいなタイプだったからさ」
「……あぅ」
 しかし、美由希の言っている事は決して否定する事が出来ない。
 実際に悠翔は筆不精かと聞かれれば――――そうだとも言えるからだ。
 メールに関しても悠翔は色々と返してくれるタイプではないし、電話もそう多くはない。
 美由希が言っているように筆不精なのは間違いないのかもしれない。
「あはは、ごめん。ちょっとからかい過ぎちゃったね。だけど……悠翔とこうして続いてるってのは嬉しいよ」
「美由希さん……」
「悠翔も今回の事件で色々とあったみたいだからね。フェイトちゃんが支えてあげてくれると有り難い、かな?」
 フェイトに軽く冗談を言った後、真剣な表情で悠翔の事を言う美由希。
 その様子には確かに従弟を気にする感情が見て取れた。
「はい……!」
 だからこそ、フェイトは美由希の言葉にはっきりと答える。
 大切な人を支えたいと言うのはフェイトの本心であり、望むところ。
 今はまだ、足を引っ張ってしまうだけでしかないから現在のように日々の事を大事にしている。
 悠翔に会えるまで、後どのくらいの時が必要になるかは解らないけれど……。
 今は決して歩みを止める時ではない。
 ゆっくりであるとしても一歩、一歩を大切にして進んでいきたい――――。
 フェイトはそう思うのだった。
















(悠翔、私も頑張るからね。何時か、一緒に歩いていけるように――――)





























 From FIN  2010/6/6



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