「……もしもし」
『フェイト、悠翔だけど……』
 なのは達を見送る立場になったフェイトの下にかかってきた電話。
 それは――――香港に戻った悠翔からだった。























魔法少女リリカルなのは
Sweet Lovers Forever〜After Days〜
















「悠翔!?」
 とある日の悠翔からの電話に驚くフェイト。
 悠翔が戻ってからは一度も連絡がなかったのもあってフェイトは思わず驚いてしまう。
 しかし、あれから一度も連絡を取っていなかった身としては悠翔からの電話は嬉しく思う。
 メールで連絡を取り合いたいとも思っていたが、悠翔の都合を考えればそれは出来なかった。
 今のフェイトはアリサやすずかと同じ立場であり、管理局とは関係がない。
 そういった事情から訓練をしていると言っても、フェイトは時間に関しては都合の取れる立場にあった。
『……ああ、俺だ。すまないな、いきなり電話して』
「ううん、嬉しいよ」
 いきなりの悠翔からの電話――――本当に嬉しいと思う。
 フェイトの方は都合が取り易いと言っても悠翔の方が取れないと思えば連絡は出来なかった。
 考えてみればフェイトは悠翔が香港でどうしているのかを全く知らない。
 だから、今までは何の連絡も出来なかったのだと言っても良いだろう。
 それにフェイトは香港との時差がどのくらいあるのかも知らなかった。
 もし、自分が学校から帰ってきても悠翔の方がまだ学校だったりする可能性だってある。
 海鳴と香港では生活の事なども含めて、様々な差があるのだとフェイトは理解していた。
 そう言った事情もあってフェイトは自分から悠翔に連絡を取る事はなかった。
 本当は悠翔と話したいし、メールで連絡も取り合いたい。
 だけど、悠翔に迷惑がかかるかもしれない――――。
 そう思うだけでフェイトは悠翔に連絡を寄越す事が出来なかった。
 だから、こうして悠翔が連絡をくれた事が嬉しい。
 フェイトはそれを隠す事なく、受話器越しの悠翔に伝える。
『……そう言って貰えると嬉しい』
 悠翔もフェイトからの言葉に若干の照れを覚えながらも返答をする。
 久し振りに言葉を交わす、若い恋人同士の会話は何処か初々しさを感じさせるような形で始まるのだった。
















「そうなんだ……香港との時差って思ったよりも差がないんだね?」
『ああ、そうだな。だから……連絡とかに関しては比較的しやすいんじゃないかと思う』
「じゃあ……夜に連絡したりしてもそんなに迷惑じゃない?」
『……勿論だ』
 御互いに気恥かしいような挨拶を交わして、フェイトと悠翔は話をしていく。
 今、聞いた話題は海鳴と香港の時差についての話である。
 悠翔が言うには海鳴の方が香港よりも1時間ほど早いと言う事らしい。
 そのくらいの時差なら電話やメールで話しても大丈夫だろうとフェイトは内心で喜びを隠せない。
 悠翔の方もフェイトがやりとりをしたいと思っていてくれている事が嬉しいと思った。
 本当は悠翔から切り出すべきだった話題だったはずだが、フェイトがリードしてくれている。
 悠翔は自分の不器用さに苦笑しながらフェイトの話に耳を傾ける。
「えへへ……良かった」
 受話器越しに聞こえる声のトーンからフェイトは悠翔が嬉しそうにしている事を実感する。
 悠翔は元々から表情を変えるようなタイプではない。
 それは話す時も同じで、悠翔の様子が違うかどうかは良く観察しないと解らない。
 しかし、フェイトのように良く見ているとなればその変化にも気付くと言うものである。
 悠翔の場合は少しだけ解りにくいと言うタイプであり、決して表情が変わらないと言うタイプではないからだ。
 特に悠翔とつきあっているフェイトは声だけでも彼の些細な変化も理解出来る。
 今の様子からすると悠翔は若干、照れていると言ったところだろうか。
『……今度からはフェイトの方からも連絡してきてくれ。都合が悪い日はなるべく先に伝えるようにするから』
「うん。悠翔もね。今の私は結構、時間に融通がきくから」
『ああ、解った。そうさせて貰う』
 ちょっとした約束ではあるが、フェイトと悠翔は新しく約束を交わす。
 時間が出来た時は我慢せずに連絡すること。
 電話にしろメールにしろ2人にとっては大切な事だから。
 今は会う事が出来ない事も踏まえればこうした繋がりが確かな絆でもあった。
 遠距離恋愛と言うのはどうしても寂しさと言うものが付きまとう。
 それはフェイトも悠翔も互いが理解している事だった。
 だから、2人は改めて一つの約束を追加する。
 我慢をせずにもっと連絡を取り合う事。
 これがフェイトと悠翔の新しい取り決めごとだった。
















「悠翔はインターナショナルスクールって言うのに通っているんだね。やっぱり、色んな国の人がいるの?」
『ああ、そうだな』
「じゃあ、他の国の女の子達とも知りあったりしてるんだ……?」
『まぁ……そうなるかな』
「むぅ……」
 時差についての話が終わった後は悠翔の学校生活に関しての話題を聞いていく。
 悠翔が通っている学校はインターナショナルスクールと言うカテゴリーのものらしい。
 インターナショナルスクールはその名前の通り、特定の国に依存しない教育機関である。
 そう言った背景からしても世界各国の少年少女達が集う学校と言っても良いだろう。
 悠翔の話からすれば当然、他の国の女の子と知り合うのは当然であるのだが……フェイトにはどうにも面白くなかった。
 自分はこうやって離れた地にいるから悠翔に会う事すら出来ない。
 ましてや、同じ学校に通うなんて夢のような話だろう。
 なのに香港のインターナショナルスクールに通っている他の国の女の子は悠翔と普通に顔を合わせている。
 それは普通の事であるはずなのにフェイトからすればそれは頬を膨らませるには充分な話であった。
 遠距離恋愛と言う形でつきあっている身とすれば他の国の女の子達とも交流すると言うのは複雑な気持ちである。
「悠翔……他の女の子と余り仲良くしちゃ嫌、だよ?」
 だから、フェイトは悠翔に釘を刺してしまうような言葉を伝えてしまう。
 内心ではこれが焼き餅である事も自覚しながら。
 悠翔にだって交友関係があるのだし、その上で女の子と一緒にいるのならばそれは悪い事じゃない。
 なのはの相手であるユーノだって管理局内で他の女の子と話をしている事だってある。
 その事に対してなのはは頬を膨らませながらもユーノが誰にでも優しい事を一番知っているのは自分だからと嬉しそうにしていた。
 他の女の子に向けられている表情となのはに向けられている表情では全く違うと言う事をなのはは良く理解していたからだ。
 しかし、フェイトの場合は悠翔と直接顔を合わせる機会はない。
 なのはと違って悠翔が他の女の子に向けている表情とフェイトに向けている表情を比べることなんて出来なかった。
 解っているのに止められなかった……フェイトは思わず言ってしまった事に少しだけ罪悪感を覚える。
『ああ、解ってる。他の女の子はあくまで友人関係だ。それに……俺には君だけだから』
「悠翔……」
 しかし、悠翔から返って来た答えは思いの外ストレートなものだった。
 悠翔はフェイトの問いかけに全く、臆する事無く応えてきたのである。
 そんな悠翔の返答にフェイトの頬が少しずつ熱くなってくる。
『俺は自分の剣に懸けてフェイトだけだと誓っている。まだ、会う事は出来ないけど……それじゃ駄目か?』
 悠翔からの胸を熱くさせてくれるような言葉。
 自分の剣に懸けて――――とは悠翔が本気でフェイトの事を見てくれている証拠でもある。
 フェイトも剣士が自分の剣を懸けると言うのは命を懸けると言うのと同義であると言う事は恭也や美由希から聞いていた。
 それに悠翔が軽々しく、自分の剣に懸けてと言う言葉を口にする人間ではないと言う事はフェイトが一番良く理解している。
 悠翔のその言葉の意味は向けられたフェイト自身のためのものである事に何の疑いもない。
「ううん、嬉しい。私も……悠翔だけだよ。この指輪に誓った約束に懸けて」
 だから、フェイトも悠翔に相応の言葉で応じる。
 指輪に誓った約束に懸けて――――。
 これは悠翔とフェイトが交わした婚約の事であり、2人を繋げている確かな絆。
 フェイトにとってこれ以上の物は存在しない。
 左手の薬指にしている指輪にそっと触れるだけで悠翔との確かな繋がりが感じられる。
 2人だけの大切な約束――――これがある限り大丈夫だと実感出来る。
 殆ど連絡を取る事が出来なかったから自分でも思わぬ事を伝えてしまったが……改めて悠翔との想いを再認識する。
 ちょっとは焼き餅を焼く事もあるけれど……やっぱり自分は悠翔の事を信じていられる。
 直接、言葉を交わした事でそれを確かなものと出来た事が嬉しい。
 フェイトは悠翔だけ――――悠翔はフェイトだけ――――。
 互いがそれぞれに誓った約束が距離を隔てていても尚、繋げてくれている。
 この想いがある限りきっと大丈夫――――そんな想いがフェイトと悠翔の間に過る。
 御互いに同じ事を考えていたのを受話器越しに感じ取った2人は思わず、笑い合うのだった。
 確かな想いが互いの胸にあると言う事を噛み締めながら――――。





























 From FIN  2010/5/9



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