それは、夜中に俺のもとにかかって来た、一本の電話から始まった。


「……え?」
「……ダメ、かな。雄真君」


電話の先にいるのは、神坂春姫……
俺の、大事な存在だ。


「いや、ダメじゃないけど……これから?」
「うん、出来るのなら……」
「あ、うん。大丈夫、これからそっちに行くよ」


















「悪い、お待たせ」
「あ、ううん」



真夜中に君の声"ふたりの雪がみたい"なんて
少し、とまどっていたんだ、本当は



呼ばれた後、すぐにティアに乗り、俺は春姫が暮らしている寮の前に飛んだ。
やはりというか、そこには少しだけ厚着をした春姫が待っていた。


「でも、どうしたんだ?」


春姫からの電話は珍しい事じゃない。
それに、俺からしても電話がかかってくれば春姫の声が聞けるから嬉しいと思う。


「うん……この頃、雄真君忙しそうだったでしょ?」


式守の秘宝問題が解決した後、俺は自ら魔法科への転属を申し出た。
実力自体は母さんも認めてくれていて、すんなり転科は出来た。
でも、それに付随する問題までは、母さんが手伝ってくれてもどうしようもなかった。


「あぁ……結局俺は1年間魔法科で習う事を何もやってなかったからね……」



すれ違う毎日に、はぐれてしまわないように
きらめく思い出の場所へ連れてって



「だから……寂しくなっちゃって」
「……ごめん」


春姫と同じ魔法科に入った。
その事実だけで、俺は大事な事を見失いかけていたらしい。


「ごめんな……春姫」
「ううん、雄真君が魔法科に来てくれただけでも、嬉しいから」


そっと抱きしめると、春姫は力を抜いて身体を俺に預けてくれた。
いつも、いつでも俺は春姫に甘えてたんだ。
寂しいと思っていても、俺を見守ってくれた、大切な人。
それに感謝と謝罪を込めて、抱きしめた腕に力を少しだけ強くする。


「……あ、雄真君!見て!」



きっと、逢えなかった時間を飛び越える
白い軌跡を信じていたの



春姫が何かを見つけたように声を上げたので、その方向を探してみる。
そして、春姫が指差していた場所は、空だった。


「……雪?」


空を見上げて見れば、風に舞うかのように、降り注ぐ白い結晶。
……粉雪、か。



今、空を舞う、粉雪を集めよう
もう一度、少しずつ、少しずつ
やさしさも、ぬくもりもよみがえる。
ふたりだけの、物語が輝き出すよ



「……春姫、寒くない?」
「うん、大丈夫だよ」
「……少し、歩こうか?」


未だ慣れないけど、春姫に向かって手を差し出してみる。
すると、春姫は嬉しそうに俺の手を取ってくれた。



さみしくさせていたね、凍える指を暖めて
どこまでも、ふたつの足跡が続いてく



「冷たい……結構待った?」
「ううん、ぜんぜん待ってないよ」


春姫の手は、冷たくなっていた。
少しでも、俺の手で暖められればと思って、握る手に優しく力を込める。


「それじゃ、公園にでも、行って見ようか」
「うん」


公園に着いた時、春姫はポケットから一枚の写真を取り出してきた。
それは、初めて俺たちがデートらしいデートをした時の写真で……


「雄真君、これ、覚えてる?」
「あぁ……腕、いっぱい伸ばしたのに切れちゃったんだよな」
「うん、でも……私には大事な宝物」


カメラなんて持ってないから、携帯を取り出してナイターモードに切り替える。
カメラより、画質が良いとは言えないけど……


「……もう一枚、撮ってみようか」
「え?」
「それ、春姫はちゃんと捕れたけど、俺が切れてるんだよな」


冗談めかしてそう言ってやると、春姫はおかしかったのか笑顔になった。



思い切り手を伸ばし、頬寄せてシャッターを切った
一枚のはみ出した笑顔覚えている?



「すっかり、白くなってきたな」
「そうだね……」


写真を撮った後、木の下にあるベンチに座って、ただ降り続ける雪を見ていた。
降り注ぐ粉雪は、やむことを知らず、優しく地面を覆っていく。


「……本当の銀世界、だね」
「……あぁ」



扉の向こうにほら、広がる銀世界
過去も、未来も包み込んでく



「やっぱり、雄真君のそばにいると、落ち着くな」
「……それは、俺もだよ」


春姫がいたからこそ、俺は魔法使いとしての目標を目指し続けることが出来た。
そして、魔法科に転科する決心を持つことが出来た。
そうじゃなかったら、俺は今何をしていたかなんて、想像ができない。



ただ、そばにいて幸せを感じてる
ふたりの上、音もなく舞い降りて



「……そろそろ、行こうか」
「そうだね、あんまり遅くなったら音羽さんたちに、心配かけちゃうものね」


俺が一言声をかけると、少しだけ残念そうに春姫は言った。


「これ以上、寒いところにいたら、春姫が風邪引いちゃうだろ?」


別に、かーさんたちの事を考えて言った訳じゃない。
ただ、俺が春姫に風邪を引いて欲しくない、そう願ったから。


「あ……うん!」


俺の台詞の意味を汲み取ってくれたんだろう。
春姫は、寂しそうな声から一転して、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。



愛してる、言葉より、昨日より
伝えている、聞こえている、永遠に



「それじゃ……お姫様、お手をどうぞ」


ベンチから立ち上がった後、ちょっとした台詞をつけて、春姫に手を差し伸べた。
自分としては冷静を装ったつもりだけど、俺の顔は赤くなっていたかもしれない。
今が、夜で心底よかったと思う。


「……ふふ、雄真君。それはキザだよ」
「たまには、良いだろ?」


くすくすと笑う春姫を見て、ちょっとだけやったことに後悔した。
でも、それを押し殺して、肩をすくめて見せる。
すると春姫は、まだおかしいのか表情は笑っていたが、ゆっくりと俺の手を取った。


「そうだね……それじゃ、お願いしますね。王子様」



今、空を舞う粉雪を溶かすように
ぬくもりから、この冬を、はじめよう



2人、手を繋いでゆっくりと来た道を戻っていく。


「寒いけど……暖かいね」


繋いだ手から伝わるぬくもりが、俺たちを包み込んでくれているような感覚。
確かに、寒いはずなのに……何故か寒くは感じなかった。


「あぁ、暖かいな」


少し道をズレれば、きっと街中の喧騒が聞こえてくるかもしれない。
だけど、俺たちが今歩いている道に見えるのは、深々と降る、粉雪だけだった。
それからいつも以上にゆっくりと時間をかけて、俺たちは寮の前まで戻ってきた。



街の灯も、ざわめきも届かない
ふたりだけの物語が、輝き出すよ



「これからも、よろしくな。春姫」


春姫が、寮の扉の中へと姿を消そうとする直前。
自然と、口からその一言が出てきていた。
俺のその台詞を聞いた春姫は、再び笑顔を見せてくれると、澄み渡るような声で返してくれた。




――――ふたりだけの物語が、輝き出すよ――――




「うん、ずっと一緒だよ。雄真君」






Image Song:冬のファンタジー(カズン)

ぼーっと聞いている時に、思いついたのでやってみました。
上手く出来たかは自信がないです。
だけど、何とかなったんでないかなぁと思います。

この2人は、なんとなくこういったのんびりな雰囲気が似合いそうですよねぃ。
そんなわけで、駄文をお送りしました。
それでわー

From Sigure Minaduki





またしても、こんな物を……大変感謝でございます。
今回も、甘い内容で素晴らしい限りです。
有難うございました!