魔法使いとして、再び歩くことを決意した俺。
普通科からの転入で、魔法科に移動した後、俺は一生懸命勉強した。
もちろん、俺一人の学習できる範囲なんて決まっている。


「……うし、これで今日の分は終わりだ」


そんな俺を、常に助けてくれる人がいた。
俺に、再び魔法と付き合うことを決心させてくれた、大事な人。


「お疲れ様、雄真君」


そう、大切な彼女と……俺は、共にいる。


















「大体、これでどの程度まで追いつけたのかな……?」


結局、俺は魔法と言うものから離れて生活していた年月の方が長い。
だからこそ、持っている知識なんていうのは、魔法の使えない人と大して代わりがなかった。
そんな俺に、時に厳しく、そして優しく教えてくれたのが、春姫だ。


「大体、1年生で習うことは終わったところかしら」
「これでも1年分か……先は長いなぁ」
「でも、雄真君もすごいよ、だって私たちはこれを1年かけて学んできたんだよ?」


魔法科に移ってから、まず俺は魔法科にいるみんなの魔法のレベルに驚かされた。
流石に伊吹みたいな強大な力を持っている人はいなかったけどな。


「……でも、まだまだ足りない。春姫たちはもっと先にいるんだから」


その中でも、俺は異質の存在と言っても問題なかっただろう。
魔法保有量は同じ年代の中でも飛び抜けている。
でも、圧倒的に魔法式が追いついていない。
こんな未熟なままでいて良いとは思わないし、俺もそれを認めない。


「……焦らないで、雄真君。ずっと、私は一緒にいるわ」
「あぁ……頼りにしてるよ、春姫」


そんな俺に、春姫が足りない魔法式を教えてくれている。
自分の勉強だってあるはずなのに、嫌な顔一つせずに。
おかげで、魔法科の1年生くらいの実力は、ついたと思う。


「あ、そうだ春姫」
「なぁに?」


そんな大切な彼女に、何か恩返しができないかと常々考えていた。
それを相談事として準に持ちかけたところ、準はあっさりと方法を教えてくれた。


「今度の休み、なにか予定、ある?」
「お休みは……うーんと、確か何もないと思うけど」


あぁ、よかった。
折角準備した事が無駄にならなくて済むみたいだ。


「それじゃ……ちょっと遠くに行かないか?」
「え?」
「春姫にはいつも迷惑をかけているし、そのお礼がしたいんだ」


嘘偽りのない、俺の本心だ。
春姫がいたからこそ、俺は今日まで魔法科の授業についてこれる。
まず間違いなく、俺一人だったら全然追いつけるはずがなかった。


「お、お礼なんて……私が好きでやっていることなんだし」


遠慮がちになる事が多い春姫だ、そう言われるのは予想がついていた。
だからこそ俺は、何の問題もなくこう切り返せる。


「んーじゃぁ、これは俺の我が侭。今度の休み、一緒に出かけないか?」
「ふふ……わかったわ、今度のお休みね?」


それを聞いた春姫は、苦笑しながらもそう言ってくれた。


「それじゃ、今度の休み、寮の前まで迎えに行くから」
「どこに行くかは、教えてくれるの?」
「それはその日着いてのお楽しみってことで」


自分でも似合わないだろうなぁと思いつつ、片目を閉じて肩をすくめて見せる。
その動作がおかしかったのか、春姫は顔を赤くして視線を逸らした。
……やっぱり、似合わなかったのか。


「……そ、そろそろ今日は帰ろうか。送ってくよ」
「ふふ……うん、帰りましょ」


恥ずかしい気持ちを誤魔化すように春姫に声をかける。
そんな俺の気持ちがわかったのか、春姫はまた笑いながら俺の隣に立った。
自然とつながれる俺たちの手。
そんな単純な事が、すごく嬉しいと感じる。


「……やっぱり、まだどきどきするね」
「あぁ……でも、嫌などきどきじゃない」
「……うん、私も」


嬉しい気持ちを感じながら、俺と春姫はゆっくりと寮へ向けて歩いていった。




















「さてと、行くか」


それから数日、いつも通り春姫との魔法の練習もこなし、学園の方の課題もこなした。
そして約束した日、俺はすももに起こされることもなく、一人で起きた。
準やハチと遊ぶときは適当に済ませる服装も、少しだけ頑張ってみた。


「おはよう、かーさん、すもも」
「おはよー、ゆーまくん」
「おはようございます、兄さん」


準備を終わらせて、居間に下りると、すでにかーさんもすもももそこにいた。


「あらゆーまくん、今日はそんなに決めちゃって……もしかして春姫ちゃんとデート?」
「え、そうなんですか、兄さん?」
「まぁ、そんなところ。行って来る」


おそらく、このまま居間にいたら散々なくらいからかわれるだろう。
経験でそう感じ取った俺は、挨拶もそこそこに家を出た。
さて、春姫のところに急がないとな。


「ごめん、お待たせ!」
「ううん、今さっき降りてきたばかりだから」


約束していた時間から、30分も早いというのにやはりというか、春姫は玄関にいた。
春姫のことだ、俺が時間通りに来ていても、きっと今降りてきたと言うんだろうな。


「行こうか」


だからこそ、俺は特に何も言わず、春姫に向かって手を差し出した。
その手を少しだけみた春姫は、嬉しそうな顔をして俺の手を取った。


「うん!」
「電車で少し移動するけど、大丈夫?」
「うん、雄真君が一緒なら平気」


臆面もなくそんなことを言われて、顔が熱くなったような気がした。
……やっぱり、春姫のこういう積極的なところは反則だと思う。
それもまた、春姫の魅力の一つだと思っているけどな。


「あ、ここって……」
「うん、前に一度来た事があったよな」


電車に乗って移動した先、それは前に来た事があるカップルがよく行くと有名な岬だった。
まぁ、俺が目指している場所は、もうちょっと奥なんだけどな。


「春姫、こっちこっち」
「あ、雄真君どこ行くの?」
「ここじゃ、人目が多いからね」


俺がやろうとしていること。
それは、今の俺じゃまだ少し辛いかもしれない。
でも、ここまで俺を見守ってくれた春姫に、見てもらいたかった。


「さてと、ここら辺で良いかな?」
「雄真君、一体なにするの?」
「ちょっとね。他の誰でもない、春姫に見て欲しいんだ」


母さんから貰った指輪を、身につける。
さて……あとは自分の実力を出し切ればいいだけだ。


「いくよ……エル・アムダルト・リ・エルス……」


前ほどじゃないが、身体の中の魔力が暴れまわるような感覚。
それに振り回されないように保ちながら、指輪へと魔力を集めていく。


「ディ・ルテ・カルティエ……」


集まった魔力は、次第に光の玉へと変化して、俺の目の前を明るく照らし出した。
さぁ、ここからが正念場だ。
光の玉を維持しながら、ゆっくりと空高く上げていく。


「……エル・アダファルス」


最後の詠唱が終わると同時に、光の玉は小さく凝縮し、はじけた。
そして、はじけると同時、ゆっくりと降り注ぐ光の欠片。


「……綺麗」


幻想的なその光を見て、春姫は一言だけ呟くように言った。
……どうやら、上手くいったらしい。
前にやったときはこうも上手く光が落ちてこなかったからな。


「俺を、ここまで支え続けてくれた春姫へのプレゼント」
「……雄真君」
「ま、こんなことでしかお礼ができないんだけど」
「ううん、ありがとう、雄真君!」


でも、これで終りじゃないんだ。
こっからが、ある意味本番と言ってもいいかもな。


「春姫、ごめん」
「え、え、きゃ!」


春姫が何か反応する前に、横抱きに抱きかかえる。
まぁ、俗に言うお姫様だっこっていうのだけどな。
人目がつかないところ選んだのも、これが理由の一つだったりする。


「それじゃ、しっかり捕まっててくれな?」
「え?……うん」


春姫がしっかりと俺に抱き着いてきたことを確認した俺は、また集中を始める。


「……エル・アムダルト・リ・エルス……」


失敗するかも……なんていう考えは、ない。
俺の腕の中には、大切な人がいる。
たったこれだけで、魔法が成功するっていう根拠のない自信が俺にはあった。


「……ディ・アムフェイ」


浮遊とベクトル操作を合わせた飛行魔法。
そして、ゆっくりと浮き上がっていく俺と春姫の身体。


「ほら、春姫……向こうを見て」
「……わぁ」


高くなる視界と、それに比例して見えてくる世界。
青い空、青い海、そして遠くに見える水平線。


「この魔法が使えるようになったら、春姫と一緒に見てみたかったんだ」


きっと、春姫のことだ。
俺がそのことを考えているとわかったら、春姫が空を飛んで俺に見せてくれたかもしれない。
だけど、俺は自分の力で、春姫にこの光景を見せてあげたかった。


「……雄真君」
「これからも、よろしくな。春姫」


まだまだ未熟な俺だ、春姫に迷惑をかけることだって多いだろう。
だからこそ、春姫には感謝してもしきれない。
その気持ちを込めて、笑顔を春姫に贈る。
その笑顔に答えてくれるかのように、春姫もまた笑顔でそう言った。


「こちらこそ、よろしくね。雄真君」


遥か彼方に見える水平線。
それを背にしながら、俺と春姫は静かにキスをした。






FINさん、HP開設おめでとうございます〜
こんな稚拙な文章となりましたが、お祝い代わりに贈らせていただきました。
煮るなり焼くなり天日干しするなりお好きに扱っちゃってくださいw

でわでわ、またお邪魔しますね。

From Sigure Minaduki





うにゃ〜……どうも有難うございました。
本当に素敵なものを頂き、嬉しく想います。
こちらこそ至らぬ身ではありますが、どうぞよろしくお願いします。