――――1915年4月19日
この日は私の艤装の元になった『戦艦榛名』が竣工した日です。
当時は海外発注か海軍工廠でのみ建造されていた海軍の主力艦でしたが……榛名は初めて民間造船所に建造発注された艦。
殆ど同時期に姉妹艦である霧島も同じように建造発注され、御互いに同じくらいのペースで工程の進捗が進んでいました。
ですが……榛名の機関の試運転が予定されていた1914年11月18日に故障が見つかり、機関建造を担当した最高責任者が自刃してしまったのです。
これにより、予定が6日程遅れる事になったのですが……。
当時の主力艦の建造がどれだけ重い責任を持って行われていたのかが良く解る御話です。
榛名の艤装もその時の記憶は明確に覚えているみたいで霧島との演習の時は何時も張り切っています。
私自身も艦娘になる以前の霧島とは仲が良いとは言えず、向こうから何かと張り合って来ていたので艤装の記憶とは深く同調出来ていたりもします。
同じ金剛型なので霧島とは姉妹艦同士ではありますが、人間としては他人であるためか、どうも馬が合わず上手くいきません。
実は私達、金剛型の艤装を身に付けている艦娘は全員が他人同士なのです。
金剛お姉さまは実際に私よりも2つ歳上の方で困った時は私の事を何時も助けてくれた尊敬出来る女性。
比叡お姉さまは1つ歳上の方で普段は霧島と組んでおり、別段仲が良いと言う訳では無いのですが……金剛お姉さまを通して色々と御話する機会がありました。
ですが、霧島とは同じ年齢で訓練も一緒で、更には同じ戦艦だったのもあってか……競い合う仲だったのです。
訓練時や筆記等では何時も霧島には勝てませんでしたが、艦娘としての適性や最後の試験全てにおいては私が霧島よりも上の成績を収めました。
その事で霧島は深く気にしているようですが、私は一生懸命に力を尽くしただけ……。
結局、私と霧島は互いに歩み寄る事もなく、艤装の記憶でも霧島と同じ艦隊で行動した事が1度しか無いという事で私達の関係は重要視されなかったのです。
そういった意味では所属する鎮守府が違うのは不幸中の幸いとも言えます。
霧島との因縁は艤装の記憶からと言うのもありますが……私自身の問題もあるのです。
朝霜ちゃんが着任した日の演習の後も霧島は「次こそは貴方に負けない!」と言って鎮守府を後にしていましたが……。
私はその事について思う事は何もありませんでした。
それは霧島が私を認められないように何処かで私も霧島を認めたくないと言う気持ちがあるからかもしれません。
何処かでそれならそれで良い……と割り切っている部分が私自身にある事も否定出来ないのです。
同時期に起工が開始され、同日に竣工した榛名と霧島――――。
私達自身の事も含めて、決して埋まる事のない溝がある関係ではありますが……。
今はせめて御互いの竣工日であるこの日を迎えられた事を感謝したいと思います。
霧島も竣工日おめでとうございます――――。
「ふう……これで良し、と」
「お疲れ様、榛名。霧島にはちゃんと御祝いの言葉を伝えられたか?」
「はい、提督。少し悩みましたが……何とか御伝えしました」
提督とケッコンしてから何時も通り、一緒に過ごす休日――――。
私は提督から背中を押して頂く形で霧島に御祝いの電報を送っていました。
竣工日であるこの日は私の艤装である榛名にとっての記念の日であると共に霧島にとっても記念の日。
私達自身が相容れないとは言ってもそれは関係のない事です。
違う場所とはいえ、嘗ても今も共に戦っている仲。
せめて、その記念となる日に御祝いの言葉を伝えるのは当然の事です。
私としてはこの竣工日をきっかけにして霧島と少しでも歩み寄れたら――――と思います。
例え、無理だとしても少しずつ前に進めば、きっと霧島とだってお姉さま達との時のように話せるはずです!
「……そうか。良かったな」
「はい……」
そう言って提督は私の頭を優しく撫でてくれます。
毎日、同じ布団で床を共にしている時、一緒に湯船に浸かっている時、戦闘が終わって戻ってきた時、そして何気ない時――――。
提督にこうして頭を撫でて貰う瞬間が榛名は大好きです。
「何れ、霧島ともゆっくり話をする時だってくる。何時か静かな海になれば……そんな機会は何時だって出来るさ」
「提督……」
「だから、榛名は自分の思う通りにやってみれば良い。今日の御祝いの電報だってその一つだろう? ちゃんと前に進めている証だ」
「……ええ、有り難うございます」
私と霧島の関係を知りながらも提督は静かに見守ってくれています。
艤装の持つ記憶の事も私達自身に色々とあった事も知りながら。
霧島との事はゆっくりと進めば良い、と優しく背中を押してくれた提督には感謝しても感謝しきれません。
この日だって本当はどうしようか悩んでいたくらいなのですから……。
榛名がこうして、霧島の事も考える事が出来るようになったのは貴方の御蔭です。
私の大好きな提督――――何時も有り難うございます!
――――榛名さん、居らっしゃいますか?
――――榛名、居ないの? 居るんだったら開けて貰えないかしら?
提督が少し私用があると言う事で部屋を後にした後、私がのんびりとソファで寛いでいると部屋の扉がノックされます。
今日は鎮守府全体で休日なので私達以外は思い思いに外出している思ったのですが……意外な来客と言うのはあるものです。
この声からすると初霜と霞ちゃんですね。
「あ、はい。少し待って下さいね」
扉を開けてみると其処には綺麗に包装された箱を抱えた初霜ちゃんの姿が。
小柄な初霜ちゃんには少し大きい箱を持つのは大変らしく、少し危なげです。
霞ちゃんの方も初霜ちゃんを手伝っているためか両手が塞がっているみたいですし、このままではいけません。
「こんにちは、榛名さん。少し……失礼させて頂いても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。その箱は……其処のテーブルの上に置いて初霜と霞ちゃんは寛いでいて下さい。私は飲み物でも用意しますから」
「すいません……有り難うございます」
「有り難う、感謝するわ」
流石にこのままにしてはおけないので、すぐに初霜ちゃんと霞ちゃんを部屋に案内して、私は飲み物の準備をします。
折角のお休みの日にこうして来てくれたのに何も出さないのは失礼に当たりますし……。
ちょうど提督が居なくなって寂しく思っていたところでした。
初霜ちゃんと霞ちゃんとは艤装の持つ記憶の事もあり、坊ノ岬の皆さんと組む時以外は優先的に私とも一緒に出撃してくれます。
嘗ての私がレイテ沖海戦を終え、本土に戻る事になった際にブルネイから台湾までの護衛を担当してくれたのが初霜ちゃんと霞ちゃん。
この時の1944年11月28日から1944年12月6日まで一時的に潮ちゃんに第二水雷戦隊の旗艦の座を預けていたと言う事ですから……余程の事です。
そうした意味でも本当に2人には御世話になっています。
初霜ちゃんと霞ちゃんは艤装の縁の事もありますが、個人的にも私のお手伝いを申し出てくれる良い娘達です。
「今日はどうしたんですか? 2人揃って荷物を持ってきて……」
「えっと……これは私達からの竣工日の御祝いです」
「榛名とは私も初霜も縁があるから用意してたのよ。アイツと一緒に食べると良いわ」
そう言って初霜ちゃんと霞ちゃんが丁寧に箱を開くと出てきたのは竣工日を御祝いするケーキと――――。
「これは……?」
「あ……それは私達以外に榛名さんに御祝いの言葉を贈りたいって言っていた皆さんからです」
「どうせ、アイツとずっと一緒に過ごすだろうって思って皆、遠慮してたのよ?」
数名の艦娘の皆からの寄せ書きが入っていました。
中身を見てみると伊勢さん、日向さん、利根さん、青葉さん、大淀さん、北上さん、天城さん、鳳翔さん、龍鳳さん、初霜ちゃん、霞ちゃんからの御祝いの言葉が。
――――竣工日おめでとう、また機会があったら一緒にあの空を見上げようと思うんだけど……どうかな? 伊勢
――――4月19日は榛名の竣工日だな。おめでとう。次の機会に会ったら特別な瑞雲をやるから宜しく頼む。 日向
――――竣工日とは目出度いな。御主がこの日を迎えられて吾輩も嬉しいぞ。提督とはしっかり仲良くするのじゃぞ? 利根
――――どうも、恐縮です。この日は榛名さんの竣工日と言う事で青葉からも御祝いの言葉をプレゼントです。今度、提督とのツーショットを撮らせて下さいね。 青葉
――――榛名さん竣工日、おめでとうございます。ありきたりな言葉で申し訳ありませんが……貴方がこの日を迎えられた事に感謝を。 大淀
――――竣工日か……良いねぇ、痺れるねぇ……。私とはあんまり一緒に出かけたりする事は無いけど……機会があれば一緒に何処かへ行ければ嬉しいかな、と。 北上
――――おめでとうございます、榛名さん! 何時も御世話になってばかりで申し訳ないです。天城……これからも頑張りますので宜しく御願いします。 天城
――――天城さん、龍鳳さん共々御世話になっております。榛名さんが竣工日を迎えられた事、誠に嬉しく思います。今度、提督と2人で食事しに来て下さいね。 鳳翔
――――榛名さん……食堂では御世話になっています。御機会がありましたら……竣工日を迎えられた記念にフーカデンビーフを御馳走させて頂きます! 龍鳳
――――竣工日、おめでとうございます。何時も御世話になって申し訳ないです。心優しい榛名さんにも幸せな事がありますように……。 初霜
――――4月19日、この日は榛名にとって大事な日ね、おめでとう。アイツと仲が良いのは構わないけど、程々にしなさいよ? 皆だってアンタと話したいんだから! 霞
寄せ書きに載せられた言葉の内容は皆、それぞれで。
一緒に最後の空を見上げた伊勢さん、日向さん、利根さん、青葉さん、大淀さん、天城さん。
榛名を見送ってくれた北上さん、鳳翔さん、龍鳳さん。
形は違うけれど、呉軍港空襲を共に経験した皆と榛名を本土にまで送ってくれた2人からの御祝いの言葉がとても嬉しいです。
こんなにも皆から御祝いされるなんて……榛名、感激です。
「榛名、嬉しそうだな」
「はい! 皆さんから御祝いの言葉も頂きましたし……本当に嬉しいです」
「そうだな。皆には気を遣わせてしまったようだし、近いうちに礼をしないとな」
初霜ちゃんと霞ちゃんから皆の御祝いの言葉とケーキを頂いて数時間後――――。
私用を終えた提督が戻って来ました。
一緒に夕食とケーキも頂いて……とても満足。
あ、初霜ちゃんと霞ちゃんが持って来てくれたケーキは本当に美味しかったです。
甘さも私好みでしたし、提督も美味しそうに食べていました。
デコレーションを見た感じだと初霜ちゃんと霞ちゃんが頑張って作ってくれたみたいですが……。
所々に瑞雲の形をしたチョコレートが乗せてあったりしたので多分、寄せ書きを書いてくれた皆さんの合作ですね。
とても可愛らしくて、美味しくて榛名は満足です。
「そうですね……。何が良いでしょうか?」
「榛名の好きにすれば良いさ。俺と一緒だと流石に皆も遠慮してしまうだろうし、鳳翔さんと龍鳳と天城の所以外は榛名だけの方が良いだろう」
皆からの気持ちを受け取って提督にどうするのが良いのでしょう? と訪ねたところ……私だけで皆の所を回った方が良いと言っています。
確かに……提督と2人で、と言っているのは食事に来て欲しいと言っている鳳翔さんと龍鳳さんだけ。
天城さんも食堂に居る場合が多いので、恐らくは提督と一緒でも大丈夫でしょう。
「解りました。私も皆さんには直接、御礼を言いたいと思っていましたし、そうさせて頂きますね?」
「ああ、明日からも数日間、続けて非番を貰ってるから思う存分に皆と楽しんで来ると良い」
「はい! 有り難うございます!」
提督は最初からこの事を解っていたのでしょうか?
4月19日のこの日から連続で非番の日を貰うだなんて……。
あ……そう言えば4月20日はあの日でしたか。
初霜ちゃんと霞ちゃんが短時間しかお茶を楽しんで行かなかった理由を考えると辻褄が合います。
でしたら、明日は初霜ちゃんと霞ちゃん以外の方の所に行きますかね……。
「榛名、少し良いか? 暫く席を外していた間にある物を受け取ってきたんだ」
「え、これは……?」
私が明日以降の予定を考え終わった頃を見計らって提督から手紙を渡されます。
白紙の封筒に入れられた手紙は電報を写したものでしょうか?
ですが、今日のこの日はもう皆に御祝いして貰いましたし……。
金剛お姉さまと比叡お姉さまからも御祝いの電報は頂きました。
だとするとこれはもしかして――――?
「察しての通り、霧島からのものだ。中身については俺は読んでいない」
「霧島から……」
提督から告げられた差出人は霧島。
私とは今までの経緯から一度もこういったやり取りは無かったのですが……?
「榛名が自分の意思で御祝いの電報を送っただろう? それについて霧島の方も何か思う事があったようだ……と比叡から聞いた」
「そう、ですか……私の言葉は霧島に届いていたんですね?」
「……ああ、榛名が前に進んだ結果だ」
霧島からもこうして返答を送ってくれるとは思いもしませんでした。
比叡お姉さまから電報を受け取った時は霧島の事については何も書かれていませんでしたけど……。
恐らくはそれよりも後に霧島がこっそりと送ったのでしょう。
結局は比叡お姉さまにバレているところを見ると少し詰めが甘いのは変わっていないみたいですけど――――。
「嬉しいです。これなら何時かはきっと霧島と向き合えるような気がします――――!」
霧島も私との関係の事で一歩進みたいと思ってくれた。
嘗ては色々とあったこの日ですが、提督の御蔭で漸く前に進む事が出来ました。
何時も大事にしてくれて、見守ってくれて、時には背中を押してくれる――――そんな、提督の事が私は本当に大好きです!
――――正直、貴方から御祝いの言葉を貰うなんて考えてもいなかった。だけど、計算だけじゃ解らないって言うものはあるのね。
――――貴方が自分から私に、と比叡お姉さまから聞いた時は本当に吃驚したものよ。私からどれだけ張り合おうとしても榛名は中々、応じてくれなかったから。
――――だけど、榛名からこうして言葉を貰った以上、私からもちゃんとお返ししないとね。榛名――――竣工日、おめでとう。 霧島
From FIN 2015/4/19
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