――――1月23日



 起工日の約一週間前のこの日――――私、駆逐艦初霜は第二次改装を受ける事になりました。
 同日には私とは他の鎮守府に所属している那智さんにもその御達しがあり、アッツ島沖海戦で共に戦った私達は揃って改装される事になったのです。
 先程、その事を喜ぶ那智さんから祝電も届き、一緒に妙高さんを護衛をした事もある羽黒さんからも御祝いの言葉を頂きました。
 他にも私が嘗て護衛をした瑞鳳さん、千歳さん、飛鷹さんからは祝電を。
 同鎮守府に所属する龍鳳さん、妙高さん、高雄さん、榛名さんからは御祝いの言葉を。
 そして――――今はまだ艤装が完成していないと言う事で訓練を続けている朝霜さん、涼月さん、冬月さん、海鷹さん、雲鷹さんからも祝電を頂きました。
 それに加えて、他の鎮守府に所属しているにも関わらず駆けつけてくれた姉妹艦の皆からも祝福されて本当に幸せです。
 第二次改装を記念して鎮守府でパーティーが行われている中、私はそっと抜け出して自分の秘密の場所である岬で水平線の向こうを見つめていました。
 思い返されるのはあの日――――坊ノ岬沖海戦のあった1945年4月7日。
 今の私自身と言うよりも駆逐艦初霜の艤装から来る遠い記憶がこの岬を好むのでしょうか。
 嘗て目指した場所に何処となく似ているこの場所はこの鎮守府で一番最後に夕日が沈む場所です。
 此処から見る夕日が大好きで私は時間がある時は良く此処に足を運んでいます。
 まだ、夕日が沈む時間まではもう少しありますが……静かなこの場所で幸せを抱き締めよう――――。
 そう思いながら私は水平線の向こう側を見つめるのでした。
















「やっぱり、此処に居た。……アンタの事だから此処に居るだろうとは思ったけど」

「霞ちゃん。それに雪風ちゃんと浜風さんまで」

 暫くのんびりとしていた所で私を探しに来たのは良く一緒に隊を組んでいる霞ちゃん。
 それに雪風ちゃんと浜風さんの姉妹まで一緒に私を探しに来ていました。
 確かに皆には黙って此処に来ていましたが、それが逆に心配させてしまったみたい。
 この場所を知る艦娘は少ないですが、霞ちゃんと雪風ちゃんとは一緒に来た事もありますし、矢矧さんと浜風さんには良い景色が見れるんです、と伝えた事がある。
 だから、私が居ない事に気付いた霞ちゃんが真っ先にこの場所に心当たりを付けたのだと思います。

「全く、主賓であるはずのアンタが何時の間にか居なくなってるんだから。磯風と矢矧と大和も心配してこの近くまで来てるわよ」

「霞さん……その言い方はちょっと」

「まぁ、霞ちゃんも浜風も落ち着いて。……初霜ちゃんが何時の間にか居なくなってて心配だったのは解りますけど」

「……ふんっ」

 そんな霞ちゃんを諌める雪風ちゃんと浜風さん。
 厳しい言葉遣いながらも世話を焼いてくれる霞ちゃんとは対照的に優しく心配してくれる雪風ちゃんとの言い合いは何時見ても笑みがこぼれちゃいます。
 2人とも本当に私の事を思ってくれるんだな、と思うと嬉しくなる。

「ごめんね、霞ちゃん。それに雪風ちゃんと浜風さんもありがとう。どうしても、此処で夕日を見たくって……」

「……全く、そんな事だろうとは思ったわよ。折角だし、私達も付き合うわ。良いでしょ? 雪風、浜風」

「はい、雪風は大丈夫です」

「……私も」

 会場を抜け出した私が何をしたいのかを察してくれた霞ちゃん。
 私が第二次改装を受けたこの日は嘗て坊ノ岬で共に戦った皆と一緒に夕日を見たいと思っていたから。
 鎮守府を出てくる時に見た限り、他の皆は飲んだり食べたりする事に夢中だったから気付かない人も多いはずだし……。
 私が抜け出せば霞ちゃんか雪風ちゃんが気付いて、この場所に皆を連れて来てくれるだろうと考えての行動だった。
 少し皆を試すような事になって申し訳なかったけれど……結果的には私が望んだ形にはなったみたい。
 新しい私になったこの日はどうしても、霞ちゃん、雪風ちゃん、浜風さん、磯風さん、矢矧さん、大和さんとこの場所で時間を共有したかったから――――。
















「全く、心配かけて……。多分、霞から何かしら言われてるだろうからこれ以上は何も言わないけど……心配かけちゃ駄目よ?」

「まぁ……良いじゃないですか矢矧。初霜ちゃんだってこうしたい、と思う日はあるはずです」

「……大和の言う通りだ」

 皆で少しだけ待つこと暫し……矢矧さん、大和さん、磯風さんもこの岬を訪れます。
 矢矧さんは霞ちゃんと同意見だったみたいだけど、その事については注意されてるだろうと思ったのか特に咎めてくる事はありませんでした。
 大和さんと磯風さんは雪風ちゃんと浜風さんと同じような意見。
 私にもこういった日はある、と矢矧さんを窘めます。

「そう言われなくても解ってるわ。此処は以前に初霜が私に一緒に夕日を見ましょう、と言っていた場所だもの。大方、この皆で一緒に見ようと思ったんじゃない?」

 ですが、矢矧さんは私が何を考えていたかを最初から見通していました。
 以前に機会があれば一緒に夕日を見ましょうと約束していた事を覚えていてくれたみたいです。
 それに此処に居る7人……嘗て坊ノ岬に挑んだ私達だけで、と言う思いも矢矧さんは解っていて。

「初霜……そうなのか?」

「はい、磯風さん」

「ふふっ……そういう話は嫌いじゃない。大和もそう思わないか?」

「ええ。あの時を共にした皆で――――と言うのは私も賛成です」

 私の意思を確認した磯風さんは同意を求め、大和さんもそれに頷きます。
 皆も私が会場を抜け出してまで此処に来たと言う意味を汲み取ってくれたみたいで。
 一緒に夕日を見る事に賛成してくれます。
 この7人で岬の上から見たいと思った光景は嘗て皆で目指したもの。
 結局、辿り着けなかったけれど……。
 今の私達が所属する鎮守府から少し離れた所にひっそりと同じような場所がある事は運命的なものを感じます。
 私と同じように水平線の向こう側を見つめる様子はとても穏やかな表情で。
 もしかすると、皆も同じように感じているのでしょうか――――。
















「はぁ……何時見ても綺麗な夕焼けです」

「私達は良く一緒に見てるけど、相変わらず此処から見る夕日は違うわね」

「そうですね。初霜ちゃん、霞ちゃん。浜風と磯風はどう思いますか?」

 皆が揃って30分くらいの後――――夕日が沈む時刻となりました。
 良く私とこの岬の上で夕日を見ている霞ちゃんと雪風ちゃんは何時も通りの反応で。
 初めて鎮守府に配属されて以来、組む事が多かった霞ちゃんと雪風ちゃんは私と普段から一緒で岬を見つけた時も真っ先に2人に教えていました。
 それからも時折、一緒にこの光景を共有していたから私と概ね同じような感想です。

「……とても綺麗な夕焼けです」

「浜風もそう思うのか? 確かに雪風の言う通り、こんな景色は悪くない」

 予想以上の光景に吃驚したのか感心した様子で夕日を眺めているのは浜風さんと磯風さん。
 浜風さんとも磯風さんとも一緒に出撃する事はあるのですが……。
 私とは同室に住んでいる雪風ちゃんや何かと世話を焼いてくれる霞ちゃんに比べると一緒に行動しているわけではありません。
 機会があれば何れ一緒に夕日を見ましょうと誘っていただけなのです。
 そのため、この岬の上から見る夕日は初めてで。
 だけど、浜風さんも磯風さんも満足そうな様子ですね……。

「私達が嘗て目指したあの場所もこんな夕焼けが見れるのかしらね? 大和」

「ええ、きっと……そうだと思います」

 私と同じように嘗て目指した場所を光景を思い浮かべながら眺めているのは矢矧さんと大和さん。
 御二人は私が第二次改装を受ける時に大和さんは御揃いのソックスと矢矧さんは自分のスカーフを模した第二水雷戦隊の証の白いラインが施された鉢巻を贈ってくれました。
 軽巡洋艦と戦艦と言う事で私達からすれば水雷戦隊の旗艦だったり、護衛対象と言う事で出撃や演習の時は一緒の機会も多くて、普段から世話を焼いて貰っています。
 特に矢矧さんの率いる第二水雷戦隊のメンバーとして名を連ねている私達は何かと縁がある関係です。
 矢矧さんは常々、自分に何かあったら後事は私に任せるとまで言ってくれているほどで、時間があれば色々と御話する事も多くて。
 機会があれば何れ……と浜風さん達と同じように誘っていました。
 大和さんが中々、動けない事も多いためか御二人を一緒にこの場所に連れてくるチャンスはありませんでしたが……。
 この日に連れてくる事が出来たのは僥倖かもしれません。
 やっぱり私は運が良いのでしょう――――。
 こうして、それぞれ皆が違う感想を述べながらも同じ夕日を眺めます。
 夕日が完全に沈むまでは僅かな時間しかありませんが、こうして7人で見る夕日は格別です。
 私の第二次改装――――あの場所を目指した時の艤装に改装されたこの日にこの光景を共有出来た事は本当に嬉しくて。
 そして、何時かは矢矧さんが口にしたあの場所でこうして、朝霜さん、涼月さん、冬月さんも交えて皆で一緒に夕日をのんびりと眺められたな……と思います。
 そのためにはこの水平線に広がる海を護っていかないといけませんね――――。
















「だから、これからも――――気力、振り絞って参りましょう!」




























 From FIN  2015/1/26



 戻る