夏の大規模作戦も終わり、季節は秋となりました。
 最近は少しだけ肌寒く感じる日も増えてきて、季節が移り変わる途中である事を実感します。
 今日は秋晴れ、お出かけ日和。
 私、榛名は非番と言う事で久し振りに街に出てきていました。
 同じく、非番であると言っていた艦娘としても、一人の人としても直接の後輩に当たる彼女と待ち合わせの約束をして。
 彼女と会うのも久し振りと言う事で少しだけ私も張り切っていたのか待ち合わせの時間よりも早く来てしまいました。
 時間まではもう少しありますし、暫く待っていましょうか――――。
















「榛名さん!」

 待ち合わせ場所に到着して数分後。
 私の待ち人である彼女――――瑞鶴が到着しました。
 瑞鶴は私が艦娘になる前に通っていた学校の後輩で艦娘としても後輩にあたる女の子です。
 実際に”戦艦榛名”と”正規空母瑞鶴”は同じ神戸の造船所で生まれた艦同士。
 そういった意味では製造された時期の違いと合わせて、現実の私達の関係と同じようなもの――――と言えるでしょうか。

「瑞鶴、そんなに急がなくても大丈夫ですよ。約束の時間よりもまだ早いですし」

 私の姿を認め、息を切らせながら駆けてくる瑞鶴に慌てなくても良いと諭します。
 久し振りに一緒にのんびり出来ると言う事で嬉しい気持ちは解りますが、最初から疲れていては楽しむ事も出来ません。

「えへへ……久し振りに榛名さんと出かけられるって思っていたら……つい」

「もう、仕方がないですね」

 でも、瑞鶴の気持ちも何となく解ります。
 艦娘になる以前は同じ学校でしたけど……。
 訓練を受け始めてからは適性のある艤装が戦艦と空母と言う事で別々の教育を受けていましたし。
 今も御互いに違う鎮守府に勤めているので、時間が合わなくてはこうした機会を設ける事は出来ません。
 瑞鶴が嬉しそうにしているのは無理もない事です。
 私も嬉しいですし。

「さて、こんな所で立ち話もなんですし……行きましょうか?」

「はいっ!」

 御互いに久し振りの再会を喜びつつ、予定通りに私達は買い物に出かけます。
 普段は深海棲艦と戦っている私達ですが……時間があれば街にこうして出てくる事も少なくはありません。
 とは言っても私の所属する鎮守府だと一緒に出かけるような趣味の合う艦娘は鳳翔さんくらいしか居ないので、大抵は一人だったりするのですが……。
 だから、瑞鶴のように気兼ねなく一緒に出かけられる艦娘と一緒になる機会は中々なくて私も少しだけ興奮しているのかも。
 それに瑞鶴とは先輩後輩としてだけではなく、別の部分でも同じ事を共有してますしね――――。
















「榛名さん、もしかして……少しだけ大きくなりました?」

 二人で街に出かけた時に良く顔を出しているブティックの試着室で私が服を脱いだところで瑞鶴が胸を見ながらぽつりと言います。

「大きくなった……? 別にそんな事ないはずですけど」

 瑞鶴はそう言いますけど……正直、私には胸が大きくなったかなんての自覚なんてありません。
 心当たりがあるとすれば――――毎日、提督に愛して貰ってるくらいですが、行為に関しては頻繁にしてる訳ではないですし。
 私自身も豊胸に良いと言われるような事は何もしていません。
 瑞鶴の気のせいだと思うのですけど……。

「む〜……榛名さんの場合は私と違うからそんな事が言えるんですよぅ……」

 ですが、瑞鶴はそれでも不満そうで。
 自分の胸と私の胸を見比べながら溜息を吐いています。

「そうですか? 瑞鶴の方も前に見た時よりも大きくなってますよ? ……貴方の提督の御蔭じゃないんですか?」

 だけど、私には瑞鶴の胸は少しだけではあるけれど成長しているように見えます。
 余りこう言うと嫌味に聞こえてしまいますが……。
 瑞鶴はスレンダーでバランスが良い体型をしているので其処まで気にする必要はないんじゃないかと私は思うんです。

「なっ……アイツの事は関係ありません!」

 私が貴方の提督の御蔭じゃないかと尋ねると瑞鶴は目に見えて頬を紅く染めて否定します。
 瑞鶴の提督は私が以前に第二次改装を受け、ケッコンをしたと私の提督が宣言した時に「俺の瑞鶴の方が可愛いに決まっている」と返答した提督。
 彼は瑞鶴とは幼馴染で艦娘になる前はずっと一緒に過ごしてきた人であり、私にとっても後輩に当たる人です。
 私がお付き合いさせて頂いている提督とも同じ所で訓練を受けた後輩と言う事なので、何かと縁があると言うべきでしょうか。
 確か……瑞鶴の提督の事については「素直ではないが、何が大切なのかは解っている奴だ」と言っていたと思います。

「あら……そうなの? 私は貴方の提督のために何時も自分を磨いているんだと思っていたんですけど……?」

 だから、私は瑞鶴の本心を訪ねます。
 彼が素直じゃないように瑞鶴も素直ではない女の子だけど、大切なものが何かを良く解っている娘。
 表向きは否定の言葉を発していますが、頬を染めている様子と瑞鶴の表情から本心は違う事は明らかです。

「ち、違わないですけど……」

 私に見つめられて観念したのか瑞鶴は漸く本心を口にします。
 やっぱり、本心では彼の事を想っていて。
 本当に大切な人なんだと言う事は瑞鶴の表情だけで解ります。
 私が提督を想っている時と全く同じですし……。
 素直じゃない部分もあるけれど、瑞鶴が良い娘なのは私も良く知っています。
 瑞鶴も私と同じで普段は秘書艦を勤めているので、大本営からの呼び出しの際に様子を見る機会もありましたが……。
 二人を見ていると何処かもどかしくて。
 鎮守府に着任してから出会った私達と違って幼馴染同士だからこその関係なのかもしれません。
 それが少しだけ私は羨ましくも思います。
 瑞鶴とその提督の場合は長年に渡っての付き合いからくる結び付きがとても強いですから……。
 私と提督の場合ですと、そういった部分に関してはまだまだこれからで。
 もっと一緒の時間を過ごさなくては瑞鶴達のような付き合いは出来ません。
 私の方も負けてはいられませんね――――!
















「まったく……アイツはデリカシーって物がないんですよ! 私が入渠中の時でも遠慮しないし」

「でも、それは瑞鶴が心配だから様子を見に来てるんじゃないの?」

 あれから暫く買い物で街を回った後の休憩で私は瑞鶴の愚痴を聞いています。
 先程から瑞鶴は声を荒らげていますが、これは何時もの事なので余り気にしません。
 寧ろ、逆に目立つだけでしかないので私はやんわりと宥めながら瑞鶴に応じています。

「それは……そうかもしれないですけど。他の艦娘が一緒の時でも来るんですよ?」

 成る程……瑞鶴が不満なのは他の艦娘が入渠している時でも構わずに来る事ですか。
 私達が入渠する時は艤装が破損した時なのですが、この時は大抵の場合身に付けている衣服もボロボロになっています。
 艤装を身に付けている際に来ている服は戦装束であるため、戦闘でダメージを受けても破損するだけで済むと言えるのですが……。
 史実の”正規空母瑞鶴”の経緯もあるのか、瑞鶴の場合は艤装も服も原型が残らないくらいになってしまいます。
 それも正直、言葉に出来ない程に。
 私の場合も胸を押さえ付けているサラシがちぎれそうになるくらいにはなりますが……流石に其処までにはなりません。
 恐らくですが瑞鶴の提督が毎回、様子を見に来るのはそれを心配しての事のはず。
 瑞鶴が「デリカシーがない」と言っているのはあられもない姿の自分を躊躇う事なく見に来る事なのでしょうが……。

「……成る程。瑞鶴は入渠中の自分以外の艦娘を提督に見られる事が不満なんですね」

 私には瑞鶴がこう言いたいのではないかと思えます。
 瑞鶴自身、スレンダーな体型を気にしてはいますが、それを見られる事については恥ずかしがってはいるけれど強く否定したりはしていません。
 彼に初めて見られたと言ってきた時の瑞鶴は寧ろ、肯定的な様子でしたし……好きな人になら別に見られても構わないと言うところでしょうか?
 瑞鶴が男性の前で無防備にしている時は常に彼の傍か、目にする事のある男性が他に居ない時に限っての事でしたから。
 だとすると、瑞鶴が不満なのは自然と他の艦娘が入渠しているタイミングが問題であると言う事に絞られてきます。
 普段はツンツンしていますが、甘えたがりな部分もある瑞鶴の事ですし……ヤキモチしているだけじゃないかと思うんです。

「は、榛名さんっ!?」

「瑞鶴を見てるとそう思えるんですけど……」

「え、えっと……その……あうぅぅぅ……」

 私の言葉に口篭る瑞鶴。
 その様子は少しだけ目に涙が浮かんでいるようにも見えて、何だか虐めてしまっているような気も。
 瑞鶴は素直になるべきだと思って厳しく言いすぎたかもしれません。

「……もう少し自分に素直になっても良いと思いますよ。貴方の提督はそんな人じゃないはずですし……想いをぶつけてみたらどうでしょうか?」

「榛名さん……はいっ!」

 うん、良い笑顔です。
 この調子なら瑞鶴も大丈夫そうですね。
 ツンツンしているのも可愛らしいとは思いますけど……折角ですからもっと甘えるくらいのつもりでぶつかった方が良いと思います。
 瑞鶴のそういった部分は私にはないものですし、アプローチの方法も自然と違うものになるはずです。
 普段は素直じゃない瑞鶴が素直に自分の事を表に出している時は本当に魅力的だから。
 私の前で彼の事を話している様子を見せてあげたらどうなるでしょうかね?
 もしかしたら、ちょっとした切っ掛けになるかもしれません。

「私――――頑張ってみます!」

 ふんすっ! っと意気込む瑞鶴を見ながら私はそう思います。
 きっと瑞鶴なら彼のハートをその弓で射止める事が出来るはずです。
 今の様子ならきっと大丈夫。
 私の主砲が提督の心を撃ち抜いた時のように瑞鶴の矢も彼に届きますように。
 ありえない事とは思いますが……もし、彼がその矢を受け取らずに躱したり、無碍にしたその時は――――。
















「瑞鶴の事――――泣かせるようでしたら榛名が許しませんよ?」





























 From FIN  2014/11/2



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