あたしは紘くんの家に来ている。

 え、何でって? だって今日は、クリスマスだし……やっぱり一緒に居たくて。

 クリスマスは、あたしと紘くんが初めて会った日。
 そして、始まりの日でもある日。
 今のあたしと紘くんがあるのも全てはこの日があったから……。
















ef - a fairy tale of the two.
〜After of Anoter Side X'mas〜
















「紘くん」
 あたしは紘くんに声をかける。
「どうした? みやこ」
 紘くんが手を止めてあたしの方を見つめる。
「ううん。何でもない」
「……そうか。悪い、もう少し待っててくれ、もう少しで描き終わるから」
「うんっ」
 紘くんはそう言ってスケッチブックにむかう。
 今まで、何度も紘くんが描いている姿を見てきたけど、絵を描いている時の紘くんはいつも真剣。
 仕事の時もそうだけど、あたしの絵を描いてくれる時も凄く集中して描いているし。
 それだけ紘くんは絵を描いたり、漫画を描いたりする事が好きなんだと思う。
「よし、良いぞ。みやこ」
 紘くんが手を止める。
「ふぇ? 終わったの?」
「ああ」
 紘くんはあたしにスケッチブックを渡す。
 あたしは紘くんの描いてくれた絵を見つめる。
「……えへへ。綺麗に描いてくれてありがと♪」
 紘くんの絵はとっても綺麗。あたしには上手く言えないけど……何か優しい感じがする。
「誉めても何もでないぞ……」
「ううん、そんな事ないよ。紘くんの絵って綺麗だから♪」
「みやこ!?」
「あ……紘くんったら照れてる」
「い、いや……」
 紘くんは私の言葉が照れくさいのか目をそらしそっぽを向く。
「えへへ〜〜〜♪」
 後ろを向いてしまっている紘くんに私は後ろから抱きつく。
 ぎゅ〜っと胸を押しつけるように。
「み、みやこ……?」
「ん〜〜〜何かな〜〜〜?」
「嬉しいんだが……胸を押しつけるのは止めてくれ。俺の理性が持たない」
 紘くんはそんな事を言ってるけど……。
「でも、嬉しいんだよね?」
「……まぁな」
 やっぱり……紘くんも可愛い彼女を嫌がるわけ無いもんね。
 実際には……あんな事やこんな事もしてるんだし。
 もう……何回くらい身体を重ねあったかな?
 紘くんに抱いてもらうたびに大事にしてくれてるって実感する。
 あたしも紘くんに抱いてもらえてとても幸せ。
 ……今日は紘くんも仕事が終わってあまり経ってないからあたしからは言えないけどね。
「みやこ……もう良いか?」
「ん……?」
 紘くんが抱きついていたあたしをゆっくりと放す。
「悪い、このままだとマジで持たない。今日は後から一緒に出かける予定だっただろ?」
「あ、うん。ごめんね。紘くん」
「いや、気にするな」
 紘くんはそう言って絵を書く道具を片付け始める。
 でも、ちょっと残念……。
 紘くんがあたしに反応してくれてるのは嬉しいんだけど……。
「ん……? どうした、みやこ?」
 そんなあたしに気付いたのか紘くんが声をかけてくる。
「ふぇ……? な、何でもないよ?」
「……そうか」
 なんか、紘くんって鋭いのか鋭くないのか解らない事がある。
 少女漫画家なんだし……女の子の心理とかに気付くのかな?
 でも、景ちゃんの事は気付いてなかったから鈍いのかも?
 紘くんはあたしがこんな事を考えているとは知らないまま道具の片付けをしている。
 もう少しで終わりそうかな?

 そしたら、紘くんと音羽の街に出かけて……。
 紘くんと……色々と見て回って……それから……。
 えへへっ……♪
 ………?
 はうっ……!? あたしったら何考えてるんだろ?

「おい、さっきからどうしたんだ?」
「ふぇ……? あれ……紘くん?」
 あれ? 何時の間に片付けが終わったんだろ?
「何か別のとこに意識が飛んでたぞ?」
「あぅ……」
 紘くんにも気付かれてたなんて……。
 あたしってそんなに解りやすかったかなぁ?
 ちょっとショックかも。
「ま、良いけどな。んじゃ、そろそろ行くか? 準備は出来てるだろ?」
「あ……うんっ♪」
 ん、気にしてもしょうがないよね。
 折角、久し振りに紘くんと出かけられるんだし楽しまないと損だし。
「じゃあ、行くぞ。みやこ」
「は〜い♪」
 紘くんといっしょに出かけるのは本当に久し振り。

 少しは期待しても良いのかな……?

















「ん〜今日は寒いね〜」
「……そうだな」
 紘くんといっしょに音羽の街を歩いていく。
 この街は前に災害を受けてしまっていたんだけど今の音羽からはそんなイメージは感じない。
 少し前にあたしのパパに聞いたんだけど新しく復興した音羽の街並みの絵を書いたのは紘くんの父親なんだって。
 そして、この街の復興計画に関わっていたのがあたしのパパ。
 そういう意味でもあたしと紘くんも知らず知らずに接点があったみたい。
 紘くんも自分の父親が関わっていたのは知ってたみたいだけど……。
 あたしのパパが関わっていたのは知らなかったみたい。
 実際、あたしもあんましそう言う事は知らなかったけどね。
「で、紘くん。今日はどうしよっか?」
「そうだな……とりあえずはみやこの行きたいところでも構わないぞ? 中々、付き合ってやれなかったしな」
「ほんと? でも……あたしも紘くんと一緒にいられればそれで良いんだよね」
「……そうか」
 あたしの言葉が照れくさかったのか紘くんはあたしから目をそらしている。
 ……ほんのり耳が紅い。
 紘くん、やっぱり照れてるんだね?
「えへへ〜♪ ひ〜ろく〜ん♪」
「お、おい!?」
 いきなり腕に抱きついてきたあたしに紘くんが慌てたような声をあげる。

 やっぱり、街中では恥ずかしいのかな?
 あたしはもう慣れちゃったから別に恥ずかしくないんだけど……。

「駄目……?」
 紘くんの反応がいまいちなのであたしは上目使いで紘くんを覗き込んでみる。
「ぐ……だ、駄目じゃない……」
 やっぱり……大体の男の人って女の子の上目使いには弱いよね?
 紘くんもそうみたいだし。
 とりあえず、声が上ずりながらも許可をくれる紘くん。
「んふふ〜♪ 紘く〜ん♪」
 あたしはそんな紘くんに腕を絡める。
 なんだかんだ言ってあたしのリクエストに応えてくれる紘くんは優しい。 
 知り合ったころからあたしの突拍子もないことにも呆れながらも付き合ってくれる紘くん。

 紘くんに聞くと否定すると思うけど……あたしは紘くんのそう言うところも好きなんだよ?










 紘くんとお話をしながら服を見てみたり、小物を見て回っていく
 街はクリスマスのシーズンなだけあって色々なイルミネーションが施されていて。
 こういう街中を紘くんと腕を組んで見て回る。
 普段からもこうやってデートをしているあたし達だけど……。
 昨年のクリスマスに出会った頃はこんな事をするようになるなんて思ってもみなかった。
 あの頃のあたしは一人きりだったし、紘くんも余裕がなかった。
 でも、今はこうしてあたしは紘くんの傍で笑っていて。
 紘くんはやりたい事のためにどうすれば良いかを見つけていて。
 きっとあたし達は幸せなカップルなんだと思う。
「みやこ」
 そんな事を考えていたあたしに紘くんが声をかける。
「渡したいものがあるんだ。ついて来てくれるか?」
 そう言った紘くんの真剣な表情にあたしの胸はどきっ……と高鳴る。
「う、うん」
 少し、慌ててしまったけど……どうにか返事をするあたし。
「じゃあ、行くぞ」
 あたしからの返事を確認した紘くんはあたしを連れて街の方とは別の方向に向かっていく。

 何処に向かうのかな……?

 でも、そんなあたしの疑問はすぐに解消された。
 紘くんがあたしを連れて向かった方向は……。
 あたし達にとっては色々とあった場所……海岸の方だったから。



















「みやこ」
 海岸についてもあたしを連れて暫く歩いていた紘くんが不意に声をかける。
「ふぇ……?」
 紘くんはいきなりの事で反応出来ないあたしに構わず言葉を続ける。
「これを……貰ってくれるか?」
 紘くんが取り出したのは小さな箱。
 あたしがゆっくりと蓋を開けると、その中にはシンプルなデザインの一つの指輪。
「紘くん……これ……」
「いや、まぁ……これは予約と言うか何と言うかだな……」
 紘くんは誤魔化すかの様に目を反らしているけど……。
 やがてあたしの目をはっきりと見て……言葉を紡ぐ。
「今はまだ……こういうのしか贈ってやれねぇけど……貰ってくれるか?」
「紘……くん……」
 あたしは嬉しくて涙が溢れそうになりながらも紘くんの名前を呼んで……。
「うんっ……!」
 紘くんに精一杯の笑顔で返事をする。
 あたしの返事を聞いた紘くんはあたしの持っていた箱からそっと指輪を抜き……。
 ゆっくりとあたしの左手の薬指に指輪をはめてくれた。
「……似合ってるぞ」
 指輪をはめ終わった紘くんは一言だけそう言ってあたしの手にそっと口付けた。
 そして……あたしと紘くんは熱く見つめ合い……
 あたし達はどちらからともなくそっとキスをかわした。
 一つの言葉をのせて……。



















 ――――紘くん……大好き……。
































 From FIN  2007/12/25



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